メタバース上に銀行?金融業界における事例8選を紹介

JPモルガンがメタバース上の土地を購入し、仮想店舗を開設したというニュースは金融業界で大きな話題となりました。

実は、海外のみならず、既に国内でも多数の大手金融機関がメタバース参入に向けた取り組みを始めていることをご存知でしょうか?

エンタメなどの領域と違い、一見関係の弱そうな金融機関各社が活用に乗り出す狙いとはどのようなものなのでしょうか?

 

そこで今回は、メタバースの金融業界での活用事例8選をご紹介します。

本記事をお読みいただければ、メタバースを金融業界のビジネスに活用するためのヒントが得られるかと思いますので、ぜひ最後までご一読ください。


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そもそもメタバースとは

そもそもメタバースとは VRChat
(画像:VRChat

メタバースとは一言でいうと、人々が様々な活動を行うことのできるインターネット上の3次元の仮想空間のことを指します。

 

メタバースの語源は「超越」を意味する「meta」と「世界」を意味する「universe」を組み合わせた造語だと言われています。メタバースという言葉が世界で初めて使われたのは、1992年にニール・スティーヴンスン氏が発表したSF小説「スノウ・クラッシュ」です。

 

メタバースにおいて、ユーザーはアバターと呼ばれる自身の分身の姿でメタバース空間にアクセスし、他のユーザーとコミュニケーションや経済活動を行うことができます。例えば、集まって会話をしたり、イベントやスポーツ、買い物などを楽しむことができます。

 

一般ユーザーに広く普及しているメタバースサービスとして、「Fortnite」や「Roblox」、「どうぶつの森」などのゲーム型のメタバース、「VRChat」や「Cluster」などのSNS型のメタバースが挙げられます。

 

メタバースへのアクセス方法としては、スマホやPCからもアクセス可能ですが、Apple Vision ProやMeta Questのようなヘッドマウントディスプレイからアクセスすることにより、より世界に没入したような体験が可能になります。

メタバースとWeb3.0の関係性とは

メタバースとWeb3.0の関係性とは

メタバースとWeb3.0の関係性を一言で表すと、両者は別物であるものの、組み合わせることで大きく発展する可能性のある概念・技術です。

メタバースとは、アバターの姿で他ユーザーとコミュニケーションや経済活動を行うことのできる3次元の仮想空間のことを指します。

 

一方で、Web3.0とは、ブロックチェーン技術をベースとする、非中央集権的な技術・サービスの総称を指します。Web3.0に含まれる代表的な技術・サービスとしてNFT(非代替性トークン)やDAO(自律分散型組織)、DeFi(分散型金融サービス)などが挙げられます。

 

※参照:accenture-Meet Me in the Metaverse

金融分野のメタバース市場の成長

2021年末のFacebookのMetaへの社名変更をきっかけに、世界的に注目を集めるメタバース市場。メタバース市場全体の市場規模は2028年までに全世界で約100兆円規模に達するとも言われています。

 

そのなかで金融分野の市場も急成長を見せると考えられています。世界有数の技術調査・アドバイザリー企業であるTechnavioは、2022年から2026年までの5年間で年率約21%で成長し、約6.7兆円規模に達するとのレポートを発表しました。このような背景から、数多くの国内外の大手金融機関がメタバース領域でのビジネスに参入を始めています。

 

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メタバースの金融業界への活用の3つの方向性

メタバースの金融業界への活用の3つの方向性

メタバースの金融業界への活用の代表的なものとして、以下の3つの方向性が存在します。

  • 既存の金融サービスの新たな営業チャネルとしての活用
  • 既存の金融サービスへのメタバース上でのデータの活用
  • メタバース上の活動に対する新たな金融ソリューションの提供

それぞれの取り組みの方向性をわかりやすく説明していきます。

➀既存の金融サービスの新たな営業チャネルとしての活用

1つ目の方向性は、メタバースの既存の金融サービスの新たな営業チャネルとしての活用です。メタバース空間上に仮想店舗を設置し、現実の店頭で行っていたような営業活動を行ったり、メタバースならではの体験を通じたプロモーションへの活用が想定されます。

 

顧客にとってのメリットとして、いつでもどこからでも支店機能にアクセスできる点が挙げられます。一方、企業サイドにとってのメリットとして、従来金融機関との接点が少なかった若年層を顧客の獲得できる点や各企業が取り組みを進める、支店での窓口業務の効率化・コストカットに繋がる点が挙げられます。

 

この営業チャネルとしての活用は、3つの方向性のうち、最も早期に立ち上がってくると考えられる活用の方向性です。既に、みずほ銀行やSMBC日興証券が、メタバース上に仮想店舗を開設し、社員がアバターを介した顧客との対話を行う取り組みを進めています。

②既存の金融サービスへのメタバース上でのデータの活用

東京海上日動:大災害の予測にデジタルツインを活用
(画像:東京海上日動)

2つ目の方向性は、既存の金融サービスへのメタバース上でのデータの活用です。メタバース上での人々の活動から得られるデータや、都市全体をメタバース上に再現した各種シュミレーションなどから得られるデータを、既存の金融サービスのリスク評価や需要予測、マーケティングに活用することが想定されます。

 

既に、東京海上日動などが都市全体をメタバース上に再現したシミュレーションを、地震や洪水などの災害対策に役立てる取り組みを始めています。

 

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③メタバース上の活動に対する新たな金融ソリューションの提供

3つ目の方向性は、メタバース上の活動に対する新たな金融ソリューションの提供です。
将来的に、食事や睡眠など限られた活動以外の様々な活動がメタバース上でも行われると考えられており、現実世界に存在する金融ソリューションのメタバースVerが多数登場することが予想されます。

 

代表的な例としては、NFT等のメタバース上でのデジタルアセットに関する保険やメタバース上での経済活動にまつわる決済機能の提供、不確実性の高いメタバース領域でビジネスを行う企業への保険などが挙げられます。

メタバースの金融業界での活用事例8選

メタバースの金融業界での代表的な活用事例として以下の8つが挙げられます。

 

  • ① JPモルガン:メタバース上に仮想店舗を開設。金融サービス提供へ
  • ② みずほ銀行:メタバース上に店舗を開設し、決済機能提供などを検討
  • ③ 三菱UFJ信託銀行:メタバース上での新卒採用イベントを開催
  • ④ 野村HD:メタバース人材を獲得し、市場参入へ
  • ⑤ SMBC日興証券:メタバース上に特設ブースを開設
  • ⑥ 損保ジャパン:ANAと提携しメタバース上で実証実験
  • ⑦ 東京海上日動:大災害の予測にデジタルツインを活用
  • ⑧ 東京海上日動:災害体験ができるARアプリを開発

 

それぞれの事例についてわかりやすく紹介していきます。

 

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①JPモルガン:メタバース上に仮想店舗を開設。金融サービス提供へ

JPモルガン:メタバース上に仮想店舗を開設。金融サービス提供へ
(画像:JPモルガン・チェース)

米国大手銀行のJPモルガン・チェースは、仮想空間上に自由に建物を建てられるメタバース空間である「ディセントラランド(Decentraland)」に仮想店舗を開設しました。ユーザーはアバターとしてこの店舗を訪れることで、暗号資産に関する情報を得ることができます。仮想店舗の開設を通じて、実際のメタバース上での顧客の需要を探りながら、将来的な金融サービスの提供を検討しているものと考えられます。

 

同社が発表したレポートには「ウォルマート(Walmart)、ナイキ(Nike)、ギャップ(Gap)、ベライゾン(Verizon:米携帯端末事業者)、Hulu、PWC、アディダス(Adidas)、アタリ(Atari:米ゲーム企業)などの有名企業をはじめ、さまざまな形態や規模の企業がさまざまな方法でメタバースに参入している」、「やがて仮想不動産市場でも、クレジット、住宅ローン、賃貸契約など、物理的な世界と同じようなサービスが始まるだろう」との記載がありました。

 

また、同社でクリプト・メタバース関連を統括するクリスティン・モイ氏は「メタバースの発展は、ユーザーがリアルとバーチャルの世界を行き来できるような、強固で柔軟な金融システムを構築できるかにかかっている」と述べています。

 

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②みずほ銀行:メタバース上に店舗を開設し、決済機能提供などを検討

みずほ銀行:メタバース上に店舗を開設し、決済機能提供などを検討
(画像:株式会社HIKKY

みずほフィナンシャルグループは、2022年8月に開かれる世界最大のメタバースイベトである「バーチャルマーケット2022」への出展を発表しました。

 

銀行店舗をイメージした出店ブースでは、ボルダリング体験やオリジナル3Dモデルの配布をはじめ、ゲストを招いた金融知識に関する座談会が行われる予定です。座談会では、金融知識を有するみずほ社員と、アバターを介したコミュニケーションを取ることも可能となっています。

 

同社は、将来的にはメタバース上の店舗にて資産形成の相談や商談を実施したり、決済手段の提供などを含めたメタバース上での新たな経済活動に対するソリューションの提供を目指すとのことです。また、現状メタバースには統一された決済手段が存在しないため、みずほの決済サービス「J子コインペイ」の技術を応用した決済サービスの提供が検討されています。

③三菱UFJ信託銀行:メタバース上での新卒採用イベントを開催

三菱UFJ信託銀行:メタバース上での新卒採用イベントを開催
(画像:クラスター株式会社)

三菱UFJ信託銀行は、日本最大のソーシャルメタバースプラットフォーム「Cluster」上で、新卒採用イベントを実施しました。Cluster上に三菱UFJ信託銀行の大会議室を3DCGで再現し、就活生のバーチャルでのオフィス訪問を可能とします。会場では、従来の採用イベントと同様、会社紹介や人事部とのトークセッションの他、内定者との座談会が実施されました。

 

近年、コロナウイルス感染拡大の影響で、対面での会話やオフィス訪問などが制限され、企業がどのように自社の魅力を伝え、就活生がどのように自身をアピールするのかが課題となっています。同社は、この取り組みを通じて、新卒採用における課題解決に繋げたいとしています。

 

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④野村HD:メタバース人材を獲得し、市場参入へ

野村HDは、将来的に金融取引が活発化すると考えられるメタバース領域への参入に向け、メタバース関連の人材獲得に乗り出しました。採用人数は数十人に上る可能性があるとのことです。

 

執行役員の沼田氏は、メタバース経済圏の拡大荷ともにない、仮想空間と現実空間の経済をつなぐ仕事が必要になると予想。例えば、一般事業者が参入し経済圏がさらに拡大すると、マネーロンダリングや取引相手の信用調査などのリスク管理のニーズの発生が想定されます。さらに、メタバースは同社の手がけるデジタル証券との親和性が高いため、企業や個人の調達支援やデジタル資産の証券化などの構想を描いています。

⑤SMBC日興証券:メタバース上に特設ブースを開設

SMBC日興証券:メタバース上に特設ブースを開設
(画像:株式会社HIKKY)

SMBC日興証券は、2021年末に開催された、世界最大のメタバースイベントである「バーチャルマーケット2022」に特設ブースを出展しました。リーマンショックやアベノミクスなど相場変動を疑似体験できる株価連動ジェットコースターや、証券アナリストなどの専門家とアバターを介して話せるバーチャル座談会など、金融を身近に感じられるようなメタバースならではのコンテンツを提供しました。

 

株価連動ジェットコースターでは、走行中に当時の株価の変動と関連した金融・経済トピックが目の前に現れるなど、メタバースならではの演出で金融の世界を楽しむことができました。さらに、コースター乗車中に撮影した写真が乗車後にブース内に表示されるなど、現実世界の遊園地のアトラクションのような演出も用意されました。

 

バーチャル座談会では、投資や資産運用に関する情報を提供するパネルや動画が設置されました。また、普段なかなか直接話せる機会のないSMBC日興証券のアナリストなどと相場解説などのスモールトークセッションも実施されました、

⑥損保ジャパン:ANAと提携しメタバース上で実証実験

損保ジャパン:ANAと提携しメタバース上で実証実験
(画像:ANA NEO)

損保ジャパンは航空会社ANAホールディングスグループ傘下のANA NEOとの提携を発表しました。ANA NEOが開発中の新たなメタバース空間である「SKY WHALE」上でメタバースにおける新たな保険商品開発やサービスに関する可能性を実証するとのことです。

 

損保ジャパンの保険商品開発やリスクマネジメントのノウハウを活用し、ANA NEOの提供するメタバースである「SKY WHALE」はANAマイレージ会員約3,400万人、国際線・国内線搭乗者の5,442万人を取り込むことで、国内最大規模のメタバース基盤となる予定です。

 

実証実験の内容としては、損保ジャパンがノウハウを有する保険とリスクマネジメントを中心に、様々なケースの検証を行う予定です。具体的には、これまでの保険のあり方やデジタルアセットの活用を踏まえ、契約・加入プロセス、商品設計、契約保全について深く検討していく予定とのこと。

 

また、メタバースならではのビジネス構築を目指し、デジタルアセットに関する商取引やメタバース上でのUXをカバーする保険、Web3.0型のビジネスモデルについても検証が行われる予定です。

 

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⑦東京海上日動:大災害の予測にデジタルツインを活用

東京海上日動:大災害の予測にデジタルツインを活用
(画像:東京海上日動)

東京海上日動はNTTコミュニケーションズらと共同で、地震や水害など複数の種類の大規模災害をデジタルツインで予測する研究を開始しました。この研究の目的は、予測に基づく安全対策や補償を検討することです。

 

デジタルツインにおいて、人の流れ・空間・気象・自然災害などに関するデータと防災科学技術研究所の災害予測技術を活用し、リアルタイム性の高い被害予測モデルを構築する予定です。また、このモデルの予測に基づき、災害の種類や規模に応じた複数パターンの災害初動対応策を策定します。

 

また、災害発生時の個別避難誘導、災害情報の一元管理、インフラの安定運用を目的とした、防災アプリケーションやクラウド型防災管理システムの研究も行います。
さらに、防災ソリューションの高度化にむけ、メタバース上でのリスクデータの活用やデータドリブンな保険商品についても研究していくとのことです。

 
デジタルツインの概要やビジネス活用のメリットについてはこちらの記事をご覧ください。

⑧東京海上日動:災害体験ができるARアプリを開発

東京海上日動:災害体験ができるARアプリを開発
(画像:東京海上日動)

東京海上日動は、スマートフォンやタブレット端末を使って、河川の氾濫による洪水や土砂災害の危険性を疑似体験できる「災害体験AR」を開発しました。同アプリは、洪水や土砂災害の危険性をより多くの人に理解してもらい、社会全体の防災意識を高めることを目的として開発されました。また、今後は自治体や企業との連携による小学生や住民への防災教育、スマートシティなどでの活用を予定しています。

 

さらに、日系企業の多いタイでの浸水深の可視化も可能で、今後はニーズに応じてグローバルに展開も検討中とのことです。

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このナレッジの著者

メタバース総研 代表取締役社長

今泉 響介

株式会社メタバース総研(現・CREX)代表取締役社長。
慶應義塾大学経済学部卒業。学生起業した事業を売却後、日本企業の海外展開/マーケティングを支援する株式会社Rec Loc を創業・社長就任を経て、現職に。メタバースのビジネス活用に特化した国内最大級の読者数を誇るメディア「メタバース総研」の運営やメタバースに関するコンサルティング及び開発サービスの提供を行っている。著書に『はじめてのメタバースビジネス活用図鑑』(中央経済社)

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