メタバースの学校教育・企業研修への活用事例8選|メリットも解説!

近年、Facebookのmetaへの社名変更をきっかけに注目を集めるメタバースですが、広く利用される用途はゲーム・エンタメである一方で、3Dの没入型の体験を提供できる相性の良さから、学校教育・企業研修の現場への活用も注目を集めています。
そこで今回はメタバースの学校教育・企業研修の現場への活用事例8選を、4つのメリットや導入における課題とともに詳しくご紹介します。
コロナウイルスの影響もあり、IT化・リモート化が加速する教育・研修現場が、メタバースの活用によってどのように変化していくのでしょうか?
学校教育や企業研修の現場でのメタバース活用にご興味・関心をお持ちの方は、ぜひ最後までご一読ください。
目次
そもそもメタバースとは
メタバースとは、ユーザーひとり一人のアバターを通じてコミュニケーションや経済活動を行うことのできる3次元の仮想空間のことです。
メタバースの語源は「超越」を意味する「meta」と「世界」を意味する「universe」から来ており、1992年に発表された、ニール・スティーブンソン作のSF小説「スノウ・クラッシュ」で初めて用いられた言葉とされています。
メタバース空間では、現実に近い環境で活動ができます。例えば、集まって会話をしたり、スポーツやライブや買い物などを楽しんだりすることができます。また、将来的には、SF映画のように、メタバース上のサービスとデバイスが進化していけば、「食事と睡眠以外のほぼ全てが体験できるようになる」とも言われています。
例えば、一般ユーザーに広く普及しているメタバースサービスとして、「Fortnite」や「Roblox」などのゲーム型のメタバース、「VRChat」や「cluster」などのSNS型のメタバースが挙げられます。
また、これらのサービスはPCやスマートフォンからでもアクセス可能ですが、MetaQuestProのようなヘッドマウントディスプレイからアクセスすることにより、より没入感ある仮想体験が可能になります。
メタバースの基礎知識をまとめてキャッチアップしたい方はこちらの記事をご覧ください。
参照:MatthewBall.vc-The Metaverse: What It Is, Where to Find it, and Who Will Build It
メタバースの教育・研修への活用が注目される3つの理由
メタバースの教育・研修への活用が注目される理由として以下の3つが挙げられます。
- ①メタバースへの注目度の高まり
- ②メタバースと教育分野の相性の良さ
- ③学校教育のIT化
それぞれの理由についてわかりやすく紹介していきます。
①メタバースへの注目度の高まり
フェイスブック社が昨年10月にメタ社への社名変更と年間約1兆円の投資計画を発表したことをきっかけに一気に注目を集めるメタバース。メタ社以外にも、GoogleやAppleなどのBigtechが積極的にテクノロジ開発や事業開発に取り組んでいる領域です。
メタバースの代表的なユースケースとしてはFortniteなどのゲーム、DecentralandなどのNFTを中心とした投資、VR ChatなどのSNSなどが存在しますが、それ以外にも幅広い業界の国内外のトップ企業がメタバース領域への参入を発表しています。
②メタバースと教育分野の相性の良さ
直近はゲームやSNSなどでの活用が注目されるメタバースですが、教育分野への活用も期待されています。3Dの仮想空間という特徴を活かし、テキストベースでは理解しづらいコンテンツを3Dで表示したり、通常は再現が難しい危険な環境を再現したりすることが可能です。
それもそのはずで、メタバースのベースとなるVR(仮想現実)は元々、戦時のパイロットのフライトシュミレーターが始まりとされており、元々教育や研修を目的に開発された技術で、そのVRが発展して現在のメタバースに繋がっているのです。
③学校教育のIT化
欧米と比べまだまだ遅れを取っている、教育のIT化ではありますが、政府が2020年度までに全国の小中学校で1人1台のPCの整備を目指すことを発表するなど、日本でも徐々にIT化に向けた動きが始まっています。
また、新型コロナウイルスの感染拡大により、リモートでの授業の実施をせざるを得なくなり、教師側、生徒側ともにオンラインで授業を行う抵抗感もかなり弱まっているのではないでしょうか。ITを活用した教育環境が整備されつつあることで、メタバースの活用が進む土壌が整備されつつあると言えます。
メタバースの教育・研修への活用の4つのメリット
メタバースを教育・研修に活用するメリットとして主に以下の4つが挙げられます。
- ①3Dコンテンツによる学習効率の向上
- ②学習の時間的・地理的制約からの解消
- ③自由に失敗できる環境の提供
- ④非常時のシチュエーションを再現可能
それぞれのメリットについてわかりやすく紹介していきます。
①3Dコンテンツによる学習効率の向上
従来の教材は2Dであり、直感的に理解することが困難でした。3Dコンテンツは、生体の臓器の構造や機械の操作方法などの立体的な学習内容の理解を促進することができます。また、3Dコンテンツだけでなく、アニメーションも学習用として活用されています。これにより、学習効率の向上が期待されます。
②学習の時間的・地理的制約からの解消
バーチャルトレーニングは、柔軟な働き方と学び方を可能にします。現場のオフィスや海外の研修先など、仮想空間に場所を設定することで、これまで屋外で行わなければならなかった研修をオフィス内で行うことができ、研修の時間も柔軟に変更することができます。同時に、実際に人がイベントで必要とする時間も大幅に削減することができます。
新型コロナウイルス感染の影響で、リモートワークが一般的になるなか、メタバースなどの先端技術を活用した学校教育・研修現場のアップデートは更に注目を集めそうです。
③自由に失敗できる環境の提供
メタバースは、思考力や分析力、創造力や想像力を養う教育環境を実現します。また、教師は、ゲームやクイズを作成する機能など、メタバースのインタラクティブな機能を通じて、授業を充実させることができます。
また、実験道具など物理的な器材を用いて行う教育も、仮想空間上であれば失敗しても身体的な危険にさらされる心配がありません。
そのため、現実の世界であればミスが命取りとなるような実験でも、メタバース上であれば子供たちに失敗を気にせず挑戦してもらうことが可能です。この「自由に失敗できる」という観点はメタバースの教育分野への活用において非常に重要なポイントであり、従来の減点主義の教育を変え、子供たちの自由な好奇心や発想を基にした加点主義の教育への変換点となるかもしれません。
④非常時のシチュエーションを再現可能
メタバースではまるで現実だと勘違いしてしまうような没入感のある環境を構築することができます。これにより、従来の技術では再現の度合いや危険性などの点で困難であったり、再現できたとしても費用が高額であったりした非常時のシチュエーションを、比較的安価に再現することが可能になります。
メタバースの教育・研修への活用事例8選
メタバースの教育・研修への活用事例として以下の8つが挙げられます。
①Labstar:メタバース上で理科実験ができる世界最大のプラットフォーム
②スタンフォード大学:メタバース上での講義を実施
③角川ドワンゴ学園:メタバースを活用した授業を実施
④富士ソフト:バーチャル教育空間を開発・提供
⑤STRIVR:メタバースを活用した従業員研修プラットフォーム
⑥ウォルマート:メタバース上で混雑等の状況を再現した研修
⑦ANA:VRを飛行機の機体整備士の危険予知研修に活用
⑧JR東日本:VRで鉄道との接触等による事故現場を再現した研修
それぞれの事例についてわかりやすく紹介していきます。
学校教育への活用事例
①Labstar:メタバース上で理科実験ができる世界最大のプラットフォーム

Labstarは、VR上で最先端の様々な理科実験を低コストで実施できるプラットフォームです。通常高度な理科実験は設備や費用、安全性などの関係から実施が限られることが多い一方で、こちらのプラットフォーム上ではバーチャルに再現することで、いつでもどこからでも低コストで実施することが可能です。
このメリットから多くの高校や大学に導入され、500万人以上の学生がこちらのプラットフォーム上で学習を進めています。
②スタンフォード大学:メタバース上での講義を実施
スタンフォード大学は、Meta(旧Facebook)が開発した「Virtual People」というVRを活用した教育カリキュラムを導入しました。2021年から始まったこのプログラムには数百人の学生が参加し、年間約150日間の授業がVR空間内で行われています。学生は同社製のVRヘッドセット「Oculus Quest 2」を使い、ほぼ全ての内容をVR上で学習しています。
③富士ソフト:バーチャル教育空間を開発・提供
富士ソフト株式会社は2022年3月に教育機関向けに特化したバーチャル教育空間「FAMcampus」の提供を開始しました。
FAMcampusは、オンライン授業前・中・後のコミュニケーション活性化に向け、オンライン授業のデメリットに対応した細部までこだわり抜かれた体験設計がなされている点です。
特徴としては以下の3点が挙げられます。
➀教育用に設計された、リアルの教室さながらの仮想空間
生徒はアバター姿でリアルの教室さながらの仮想空間にアクセスし、生徒や先生の存在を対面同様に身近に感じながら、モチベーション高く学習に取り組むことができます。
②アバターをぶつけるだけで簡単にビデオ通話が可能
授業の前後の時間などに、生徒と気軽かつ簡単にコミュニケーションを取ることができ、気になった生徒に対し個別に丁寧なフォローすることができます。
③コミュニケーション活性化に向け教室以外のスペースも充実
教室だけでなく、休憩スペースや面談室、廊下などが用意されてあり、コロナ禍でもリアルの学校のような、自然発生的なコミュニケーションを取ることができます。
これらの特徴により、生徒自身のモチベ―ションを高めながら、きめ細やかな指導を行うことが可能となっており、既に早稲田スクールや学研グループなど、様々な学習塾に導入されています。
FAMcampusについての詳細・お問い合わせはこちらをご覧ください。
④角川ドワンゴ学園:メタバースを活用した授業を実施
IT企業ドワンゴの運営する通信制高校である角川ドワンゴ学園の普通科では、2021年4月からVRによる授業が導入されています。VR内で学習できるようにVRヘッドセットを配布し、同校で販売されている教材の大半はVRに対応しています。これまで紙の読み書きを覚えることが中心だった授業が、3D教材や史跡に触れるなど、疑似体験に重点を置いた授業に変わりました。
研修への活用事例
⑤STRIVR:メタバースを活用した従業員研修プラットフォーム
STRIVRはVRを活用し従業員に様々な研修を実施できるプラットフォームです。VRの特徴を活かし、日常業務から緊急時の対応まで幅広いシチュエーションを再現した研修が可能です。また、研修を経て得られたデータを分析し、学習効率を高める機能などを搭載しており、既にウォルマートなどの多くの導入先で大きな成果を挙げています。
⑥ウォルマート:メタバース上で混雑等の状況を再現した研修
世界的なスーパーマーケットチェーンであるウォルマートは、接客のトレーニングにVRを導入しています。従業員にHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着させ、ブラックフライデーなどの販売イベント時に大勢のお客様に対応するためのトレーニングを行っています。
従来の研修とは異なり、現実には再現が困難な状況を実際に体験しているかのような研修を行うことができます。
この研修を行うため、ウォルマートは1万7000台のOculas Questを約4700店舗に準備するなど大規模な投資を行っています。
⑦ANA:VRを飛行機の機体整備士の危険予知研修に活用
ANAは労災ゼロを目指し、整備士に向けた安全体験教育にVRコンテンツ「ANA VR Safety Training System」を導入しています。ANA VR Safety Training Systemは、整備士が作業の安全を確保するための危険予知能力を向上させるための研修プログラムです。
航空機整備の環境や過去の労働災害事例をもとにコンテンツを作成し、格納庫での整備作業を再現したVRシステムです。受講者が危険を見逃したまま次の行動に移ったり、安全行動の手順を間違えたりすると、VRシステム内で転倒を体験することになります。このとき、ナレーションで行動を振り返り、なぜ参加者が転倒・転落したのかを説明します。このような手順で実際の作業における危険を予見し、転倒・転落から身を守ることができます。
⑧JR東日本:VRで鉄道との接触等による事故現場を再現した研修
JR東日本は鉄道の事故現場のシュミレーションを研修に取り入れ、研修の質の向上に取り組んでいます。鉄道の3大労災である。「触車」、「墜落」、「感電」のうち、「触車」と「墜落」に関する4つの事故を再現しました。高額で準備する手間のかかるHMDを使用せず、スマホを使ってVRコンテンツを体験するため、社員が集合して研修することもないというメリットもあります。
メタバースの教育・研修への活用における2つの課題
メタバースの教育・研修への活用における課題として以下の2つが挙げられます。
- ①導入コストの高さ
- ②導入先のITリテラシー
それぞれの課題についてわかりやすく紹介していきます。
①導入コストの高さ
学校教育・企業研修へのメタバースの導入にあたっても資金に限りのある学校や中小企業にとって、導入コストは大きな問題となります。VR教育・研修を行うには、ヘッドマウントディスプレイなどのVR機器が必要です。シンプルな構成の機器であれば数万円程度で購入できますが、複雑な構成になると数十万円以上かかります。
学校教育への活用に関しては、学校の先生の中には高齢者もおり、これを解決しないままメタバースを導入すると、教える側のITリテラシーが問題になることは容易に想像できます。
また、VRデバイスの購入費用に加えて、メタバースコンテンツの開発費用も必要で、再現するコンテンツによって金額は異なりますが、数十万円〜数百万円程度のコストがかかります。
この課題を解決しないままVRを導入すると、教師がITリテラシーを持つかどうかで、提供する教育の質が変わってしまうのです。
東進ハイスクールの映像授業のように、1人の先生が1つの授業を担当する従来の授業形態から、専門の先生がオンラインで複数の授業を担当する柔軟な授業形態に移行するのも1つの方法です。
また企業研修への活用に関しても、一部の大企業では導入が進んでいる一方、多くの企業はVRを活用した研修プログラムを導入する際に何から始めればよいのかわからず、まだ活用できていないことが多いです。
②導入先のITリテラシー
学校教育への活用に関しては、学校の先生の中には高齢者もおり、これを解決しないままメタバースを導入すると、教える側のITリテラシーが問題になることは容易に想像できます。
この課題を解決しないままメタバースを導入すると、教師がITリテラシーを持つかどうかで、提供する教育の質が変わってしまうのです。
東進ハイスクールの映像授業のように、1人の先生が1つの授業を担当する従来の授業形態から、専門の先生がオンラインで複数の授業を担当する柔軟な授業形態に移行するのも1つの方法です。
また企業研修への活用に関しても、一部の大企業では導入が進んでいる一方、多くの企業はメタバースを活用した研修プログラムを導入する際に何から始めればよいのかわからず、まだ活用できていないことが多いです。
まとめ
今回は、メタバースの学校教育・企業研修の現場への活用事例を、メリットや導入における課題とともにご紹介しました。
今後は、メタバース導入にかかる費用の低価格や導入先のITリテラシー向上などにより、より活用が進んでいくことが想定されます。
また、政府もWeb3.0を国家の成長戦略の柱に掲げるなど、行政がメタバース活用を積極的に押し進める可能性もあります。
ぜひ一度この機会に、教育現場でのメタバース活用の余地についてご検討されてみてはいかがでしょうか?
本記事が少しでも読者の皆様のお役に立てていれば幸いです。