メタバースの自動車業界での活用事例9選|5つのメリットも解説!

ゲームなどのエンタメ用途が広く知られるメタバースですが、自動車業界でも、トヨタや日産、ベントレーなど国内外の主要企業が、既にメタバースの活用に取り組んでいることをご存知でしょうか?
実は自動車業界はメタバースと非常に相性が良いため、新たなビジネスチャンス創出に繋がると考えた主要企業が、相次いで参入している状況です。

 

そこで、今回は、メタバースの自動車業界での活用事例をメリットとともに解説します。
メタバースの活用により、製造・販売・ドライブ体験・顧客管理の各プロセスがどのように進化していくのでしょうか?

 
本記事をお読みいただければ、自動車業界のビジネスにおける、メタバース活用のヒントが得られるかと思いますので、ぜひ最後までご一読ください。


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目次

そもそもメタバースとは

そもそもメタバースとは VRChat
(画像:VRChat

メタバースとは一言でいうと、人々が様々な活動を行うことのできるインターネット上の3次元の仮想空間のことを指します。

 

メタバースの語源は「超越」を意味する「meta」と「世界」を意味する「universe」を組み合わせた造語だと言われています。メタバースという言葉が世界で初めて使われたのは、1992年にニール・スティーヴンスン氏が発表したSF小説「スノウ・クラッシュ」です。

 

メタバースにおいて、ユーザーはアバターと呼ばれる自身の分身の姿でメタバース空間にアクセスし、他のユーザーとコミュニケーションや経済活動を行うことができます。例えば、集まって会話をしたり、イベントやスポーツ、買い物などを楽しむことができます。

 

一般ユーザーに広く普及しているメタバースサービスとして、「Fortnite」や「Roblox」、「どうぶつの森」などのゲーム型のメタバース、「VRChat」や「Cluster」などのSNS型のメタバースが挙げられます。

 

メタバースへのアクセス方法としては、スマホやPCからもアクセス可能ですが、Apple Vision ProやMeta Questのようなヘッドマウントディスプレイからアクセスすることにより、より世界に没入したような体験が可能になります。

メタバースを自動車業界に活用する5つのメリット

メタバースを自動車業界に活用する5つのメリット

メタバースを自動車業界のビジネスに活用するメリットの代表的なものとして、以下の5つが挙げられます。

 

  • ①シミュレーションへの活用による自動車設計の高度化
  • ②シミュレーションへの活用による製造ラインの効率化
  • ③自動車の新たな販売チャネルとしての活用
  • ④車内をメタバース空間化することによる体験価値向上
  • ⑤NFTと組み合わせた活用による顧客ロイヤリティの向上

 

それぞれのメリットをわかりやすく紹介していきます。

 

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①シミュレーションへの活用による自動車設計の高度化

シミュレーションへの活用による自動車設計の高度化 Ansys
(画像:Ansys)

メタバースを利用したシミュレーションを行うことで、従来の物理的なシミュレーションのみの時と比べ、自動車設計の質を高めることが可能です。

 
デジタルツインと呼ばれる技術を活用し、自動車の完成図を3Dモデルとしてメタバース空間上に構築することで、物理的なシミュレーションの一部を代替することができます。
そのため、従来のシミュレーションに比べ、低コストで何度も試行錯誤が可能であり、より質の高い設計をすることに繋がります。

②シミュレーションへの活用による製造ラインの効率化

メタバースを利用したシミュレーションを行うことで、製造ラインの故障を未然に防いだり、全体のワークフロー効率を改善したりすることができます。

 
工場に設置されたIoTセンサーからの情報を常時または一定時間ごとにデジタルツインに送信することで、予知保全を行うことができ、円滑な製造ライン操業の維持に役立ちます。
例えば、仮想空間上でのシミュレーションにより、製造ラインにおける様々な変数が生産量や生産効率にどのように影響するかを確認し、設計や運用方針に活用することが可能です。

③自動車の新たな販売チャネルとしての活用

ハイブランドなどの他業界と同様、国内外の自動車メーカーにも、製品のプロモーションにメタバースを活用する動きが出てきています。
もちろん、実店舗で購入し、実物を手に取って確認するという体験はできませんが、これまでデジタルでのプロモーションやECでの販売が難しかった商品のプロモーションという観点では、新しいプロモーションチャネルとしての活用が期待できるのではないでしょうか。

 
例えば、2Dの画像だけでは特徴や魅力が伝わりにくい自動車の販売において、メタバース上で試乗して3Dでデザインや内装を確認できれば、お客様の自動車に対する興味も高まり、実際に試乗に行く人数の増加に繋がるかもしれません。
コロナウイルスの蔓延で実店舗での販売が制限される中、この技術をプロモーションに活用する動きが活発化していくと考えられます。

④車内をメタバース空間化することによる体験価値向上

車内をメタバース空間化することによる体験価値向上 テスラ
(画像:テスラ)

近年テスラなどの世界中の自動車メーカーが自動運転の実用化に向けて取り組んでいますが、自動運転が実現するとなるとドライバーが車内で自由に過ごせる時間が生まれます。その時間で搭乗者にサービスを提供することが出来れば、自動車業界にとって新たなビジネス機会となります。
その提供サービスの候補として車内空間のメタバース空間化が検討されています。

 

具体的には、車内にVRディスプレイを設置し高度な音響設備と共に没入感のあるメタバースコンテンツを提供したり、窓ガラスをARディスプレイ化し、移動中の車からの景色に有益な情報を付与したりすることが考えられます。
個室かつ様々な設備を搭載しやすいという観点から、車内空間のメタバース化は今後多くの自動車関連企業が検討する事となりそうです。

⑤NFTと組み合わせた活用による顧客ロイヤリティの向上

NFTとメタバースを組み合わせ、顧客ロイヤリティ向上を狙う取り組みが進んでおり、特にルイヴィトンやグッチなどの多くのハイブランドがNFTを活用した顧客マネジメントに取り組んでいます。

 

具体的には、NFT保有者だけがアクセス可能なメタバース空間を提供し、新商品を先行販売したり、限定商品を販売したりするなど、VIP向けのサービスを行うことで、顧客ロイヤリティを高めることができます。

 

自動車業界も、高級アパレル業界と同様、顧客単価は高い一方で来店する頻度はそこまで高くなく、来店されない期間にどう顧客と接点を持ち、ロイヤリティを高めるかという課題を抱えているため、メタバースのNFT組み合わせた活用も進んで行くと考えられます。

メタバースの自動車業界での活用事例9選

メタバースの自動車業界での代表的な活用事例として以下の9つが挙げられます。

 

  • ① BMW:世界中の自動車工場を3Dスキャンしメタバース化
  • ② 東芝デジタルソリューションズ:MR活用による現場作業の効率化
  • ③ 日産自動車:メタバース上での試乗会を開催
  • ④ 日産自動車:メタバースを活用し全く新しいドライブ体験の提供へ
  • ⑤ トヨタ:都市やサービス開発にデジタルツインを活用
  • ⑥ ベントレー:専用NFTを発売し、顧客管理に活用へ
  • ⑦ホンダ:バーチャルショールームで新車をPR
  • ⑧富士通:デジタルツイン活用による車両開発の効率化
  • ⑨日産自動車:自動車のメタバース上での販売の実証実験を開始

 

それぞれの事例についてわかりやすく紹介していきます。

 

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①BMW:世界中の自動車工場を3Dスキャンしメタバース化

BMW:世界中の自動車工場を3Dスキャンしメタバース化
(画像:BMW)

BMWは世界各地の自動車向上を3Dスキャンし、デジタルデータ化することを発表しました。
工場の生産ラインにデジタルツインを活用することで、生産効率の向上を図ります。
BMWは生産プロセスのDXを進める戦略的な取り組みである「BMW iFACTORY」の中核に工場にデジタルツインを活用する「バーチャル工場」を位置づけています。

 

工場の敷地内の全領域を可搬式3Dレーザースキャナーやドローンを用いてスキャン予定で、2023年の上半期に完了予定とのこと。
その後、NVIDIAの提供するメタバース空間ツールである「Omniverse」によってスキャンしたデータを使ってバーチャル工場を作成します。

 

同社はバーチャル工場の取り組みを数年前から実施しており、データを活用した設備改善、複数の関係者がリアルタイムCGによるコミュニケーションの円滑化、最新データの多くの関係者への共有などにより生産ラインの生産性向上に繋がっているとのことです。

②東芝デジタルソリューションズ:MR活用による現場作業の効率化

東芝デジタルソリューションズ:MR活用による現場作業の効率化
(画像:東芝デジタルソリューションズ)

東芝デジタルソリューションズのMRソリューションは、2019年より自動車業界の企業で活用されています。

例えば、溶接作業において、従来は溶接箇所に穴を開けた紙を重ね合わせて、溶接箇所がずれていないかを手作業で確認する必要がありました。また、設計に変更があった場合にも、紙を作り直した上で再度確認する必要がありました。

 

そこで、MRを活用することで、設計変更のたびに用紙を作り直す手間を省くことができます。また、現場の作業員はデジタルガイダンスを見ながら、直感的に溶接箇所が正しいかどうかを確認することができます。その結果、溶接作業のスピードと精度の向上に繋がっています。

③日産自動車:メタバース上での試乗会を開催

日産自動車が開催したメタバース上での新車発表・試乗会
(画像:日産自動車)

日産自動車は、新型軽電気自動車「日産サクラ」の発表会および試乗会をメタバース上で開催しました。

試乗会は、世界最大級の参加型VR SNS「VRChat」上で行われ、日本の四季を感じられるドライブコースでバーチャルな日産サクラを運転することができます。自分で運転席に座って運転したり、後部座席に座ったりと、現実の試乗さながらの体験ができ、新車の特徴を立体的に確認することができます。メタバース上での試乗は通常の試乗とは違い、書類での手続きなども不要で、いつでもどこからでも体験可能なのが最大の強みです。

 

今回のようなトライアルを重ねることで、将来的にメタバースの商品プロモーションのチャネルとしての活用が本格的に進んでいくことが期待されます。

 

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④日産自動車:メタバースを活用し全く新しいドライブ体験の提供へ

日産自動車:メタバースを活用し全く新しいドライブ体験の提供へ
(画像:日産自動車)

日産自動車は、リアル(現実)とバーチャル(仮想)の世界を融合することでドライバーに「見えないものを可視化」し、メタバースを活用した、全く新しいコネクテッドカー体験を生み出す技術である「Invisible-to-Visible(I2V)」を発表しました。

 

I2V技術は利用者に、➀より安心安全なドライブの実現と②車内で過ごす時間の高付加価値化という、大きく2つのメリットを提供することを目指しています。

メリット➀より安心安全なドライブの実現

車内外のセンサーが収集した情報とクラウド上のデータを統合することにより、クルマの周囲の状況把握だけではなく、クルマの前方の状況を予測したり、通常では見ることができない建物の裏側やカーブの先の状況を、ドライバーの視野に投影したりすることを可能とします。

 

その他の具体的な機能として、「渋滞の先頭で何が起こっているのかを確認し、最適な車線がレコメンドされる」、「カーブが連続する山道で、見えないカーブの先や対向車が可視化して投影される」などが挙げられています。

メリット②車内で過ごす時間の高付加価値

メタバースとドライバーや乗員がつながることで、離れた場所にいる家族や友人などが3Dのアバターとして車室内に現れ、一緒にドライブしたり、エンタメや教育など様々なコンテンツを楽しむことを可能とします。

 

その他の具体的な機能として、「初めて訪れた場所のドライブ中に、ローカルガイドがアバターの姿で車内に登場し、観光案内をしてくれる」、「遠く離れた家族や友人をアバターとして同乗させ、会話をしながら移動を楽しめる」、「語学講師をメタバースから呼び出しレッスンを受けられる」などが挙げられています。

 

同社は、これらの技術の2030年代の実用化を目指し、研究開発を進めています。

⑤トヨタ:都市やサービス開発にデジタルツインを活用

トヨタ:都市やサービス開発にデジタルツインを活用
(画像:トヨタ)

トヨタはあらゆるモノやサービスが繋がる実証都市である「Woven City」を、静岡県に開設することを発表しました。
このプロジェクトでは、実際に人々が生活を送る環境で、自動運転やMaaS、パーソナルモビリティやロボットなど、幅広い先端テクノロジーの実証実験を行うとのこと。

 

このプロジェクトで計画されている多数の実証の鍵となるのがデジタルツインです。
デジタルツインは建物や人やモビリティから得られたデータから、それらをバーチャル空間上で再現し、様々なシミュレーションを行う技術です。

 
WovenCityでは、これらの街のあらゆる箇所から得られた多用なデータを統合し、デジタルツインを構築することで、都市開発の計画や新たなサービス開発に活用することを計画しています。
例えば、テナントにどのような店舗を誘致するか検討している際に、テナント周辺の人流データを基に、最適な店舗を推定したり、新たなサービスを検討している際に、街のどのような場所でどんな人が使ってくれそうかをシミュレーションしたりするといった活用が考えられます。

 

Woven Cityは2021年初頭から開発を進めており、2024年の完成を目指しています。

 

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⑥ベントレー:専用NFTを発売し、顧客管理に活用へ

ベントレー:専用NFTを発売し、顧客管理に活用へ
(画像:ベントレーモーターズジャパン)

2022年6月に、世界的高級車メーカーであるベントレーがNFTの発売を予定していることを発表しました。2022年9月に専用のNFTを208本限定でのドロップが予定されています。
ベントレーのNFTの保有者には、限定の体験へのアクセス権や特典が付与されるとのこと。

 

ベントレーとしては、ルイヴィトンやグッチなどのハイブランド各社と同様、自社のコアファンとの新たなコミュニケーション手段として、NFTを活用することを模索しているのではないかと考えられます。

 

マーケティング担当の取締役は、「ベントレーはNFTだけでなく、オンラインゲームやメタバースアプリケーション、組織全体のブロックチェーン技術の活用など、様々な取り組みを予定している」と発言しています。同社の今後の動向から目が離せません。

ホンダ:バーチャルショールームで新車をPR

ホンダ:バーチャルショールームで新車をPR
(画像:Acure)

ホンダの海外市場向け高級自動車ブランドアキュラは、メタバース上に「Acure of Decentraland」と呼ばれるバーチャルショールームを開設しました。来場者は、次世代自動車モデルであるインテグラとアキュアブランドをテーマとした仮想空間を体験できます。また、今回新型インテグラを予約した先着500名には、新型インテグラのフォルムを再現したデジタルデータのNFTが進呈されました。

富士通:デジタルツイン活用による車両開発の効率化

富士通:デジタルツイン活用による車両開発の効率化
(画像:富士通)

富士通のデジタルツイン活用により、現実世界のデータをデジタル世界上でリアルタイムに再現・分析・予測し、車両開発を効率化することができます。例えば、発生し続ける車両や信号などの各データやその関係性を仮想空間上でリアルタイムに処理することで、故障予防や運転分析を効率化します。データを仮想的に統合し管理するので、コストも大幅に削減することができます。

 

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日産自動車:自動車のメタバース上での販売の実証実験を開始

日産自動車:自動車のメタバース上での販売の実証実験を開始
(画像:日産自動車)

日産自動車は自動車販売を行うメタバース「NISSAN HYPE LAB」の実証実験を開始しました。同メタバースでは、車選びから新車の契約購入までを仮想店舗で行うことができます。さらに、常駐しているバーチャルスタッフを通して営業スタッフの対応予約を取ることも可能です。若年層の車離れや、新車購入までに販売店に訪れる来店回数の減少などを受け、実際の販売店よりも気軽にクルマに触れることのできる場として役割を果たすことが期待されています。

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このナレッジの著者

メタバース総研 代表取締役社長

今泉 響介

株式会社メタバース総研(現・CREX)代表取締役社長。
慶應義塾大学経済学部卒業。学生起業した事業を売却後、日本企業の海外展開/マーケティングを支援する株式会社Rec Loc を創業・社長就任を経て、現職に。メタバースのビジネス活用に特化した国内最大級の読者数を誇るメディア「メタバース総研」の運営やメタバースに関するコンサルティング及び開発サービスの提供を行っている。著書に『はじめてのメタバースビジネス活用図鑑』(中央経済社)

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