メタバースの製造業界での活用事例8選|デジタルツインとの違いも解説

近年多くの注目を集めるメタバースは、ゲームやエンタメでの用途が広く知られていますが、実は製造業界とも非常に相性が良く、日本でも川崎重工が「工場丸ごとメタバース化」する計画を発表するなど、多くの企業が活用に乗り出しています。

 

一方で、「製造業のビジネスにメタバースの活用をするイメージが沸かない」、「具体的にどのような活用事例があるのか知りたい」という方も多いのではないでしょうか?

 

そこで今回は、メタバースの製造業界での活用事例8選を5つのメリットとともに解説します。
メタバースの活用により、製造のプロセスや製品のプロモーションがどのように変化していくのでしょうか?

 

本記事をお読みいただければ、製造業界のビジネスにおけるメタバース活用のヒントが得られるかと思いますので、ぜひ最後までご一読ください。


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そもそもメタバースとは

そもそもメタバースとは VRChat
(画像:VRChat

メタバースとは一言でいうと、人々が様々な活動を行うことのできるインターネット上の3次元の仮想空間のことを指します。

 

メタバースの語源は「超越」を意味する「meta」と「世界」を意味する「universe」を組み合わせた造語だと言われています。メタバースという言葉が世界で初めて使われたのは、1992年にニール・スティーヴンスン氏が発表したSF小説「スノウ・クラッシュ」です。

 

メタバースにおいて、ユーザーはアバターと呼ばれる自身の分身の姿でメタバース空間にアクセスし、他のユーザーとコミュニケーションや経済活動を行うことができます。例えば、集まって会話をしたり、イベントやスポーツ、買い物などを楽しむことができます。

 

一般ユーザーに広く普及しているメタバースサービスとして、「Fortnite」や「Roblox」、「どうぶつの森」などのゲーム型のメタバース、「VRChat」や「Cluster」などのSNS型のメタバースが挙げられます。

 

メタバースへのアクセス方法としては、スマホやPCからもアクセス可能ですが、Apple Vision ProやMeta Questのようなヘッドマウントディスプレイからアクセスすることにより、より世界に没入したような体験が可能になります。

 

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メタバースとデジタルツインの違いとは?

メタバースとデジタルツインの違いとは?

メタバースは人々が様々なコミュニケーションや経済活動を行うことのできる仮想空間のことを指します。一方で、デジタルツインは様々なシミュレーションのために現実の世界をそもまま仮想世界上に再現したモデルのことを指します。

 

メタバースとデジタルツインは非常に似た概念ではあるものの、狭義では現状のメタバースとデジタルツインは異なる概念です。両者とも仮想空間上に構築されるものなのですが、メタバースはアバターを介した人々の交流や経済活動が行われる場であり、メタバース空間上には現実空間で実在するもの/しないものの両方が存在します。例えば実在する観光名所を再現した空間もあれば、Fortniteのように完全に仮想のゲーム空間のメタバースも存在します。

 
一方で、現状のデジタルツインは企業がシュミレーションを行うためのソリューションという位置づけで、再現されるものは現実世界に存在する都市や生産ライン・製品などが中心です。

メタバース・デジタルツインを製造業界に活用する5つのメリット

製造業界におけるメタバース・デジタルツイン活用の代表的なメリットとして、以下の5つが挙げられます。

 

  • ➀シミュレーションによる品質の向上・リスクの削減
  • ②シミュレーションによるオペレーションの効率化・標準化
  • ③シミュレーションにかかるリードタイムやコストの削減
  • ④現場での作業の効率化
  • ⑤メタバース上でのプロモーションによる訴求力向上

 

それぞれのメリットをわかりやすく紹介していきます。

 

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➀シミュレーションによる品質の向上・リスクの削減

メタバース上でのデジタルツインを現実の生産ラインと統合することで、製品設計の質向上や生産効率の向上が可能になります。これにより、需要に応じた人員の再配置や、リードタイム短縮のための工程入れ替えなど、さまざまな方法で最適化を図ることができます。

 

また、シミュレーションを仮想空間上で実施することで、多くの関係者が簡単に目視で確認できるようになりました。これにより、品質向上、リスク低減、製品・生産ラインへの信頼性向上につながります。

②シミュレーションによるオペレーションの効率化・標準化

メタバース上でのデジタルツインなどを活用したシミュレーションは、生産ラインのオペレーション改善にむけた重要なソリューションです。センサーの情報を常時または一定間隔でデジタルツインに送信することにより、トラブルの予測や故障の防止に役立てることができます。

 

また、現場の状況変化にもシミュレーションで迅速に対応することできるため、最小限の時間とリソースでの対応を可能にします。例えば、設備設計者は、数回のシミュレーションを行うことで、様々な変数が生産量に与える影響を確認し、運用に活かすことができます。

③シミュレーションにかかるリードタイムやコストの削減

メタバース上でシミュレーションを行うことで、従来のシミュレーションにかかるリードタイムやコストの削減が期待できます。

 
デジタルツインなどのテクノロジーを活用することで、仮説検証をデジタル上で行うことができ、これまで物理的なプロトタイプや生産ラインの試運転に費やしていた時間を最小限にし、シミュレーションのスピード向上とコスト削減の両方を実現することができます。

④現場での作業の効率化

近年、メタバース/MRの製造業の現場での活用が始まっています。従来は、現場での作業指示は紙やタブレットを通じて確認していたため、毎回片手を使って確認しなければならず、大きな時間ロスの原因となっていました。

 
そこで、HMDやグラス型のデバイスでMRを活用することで、両手がふさがらない形で、適切なタイミングでデジタルの作業指示を確認することが出来ます。

 

また、従来の作業指示書が2Dであったのに対し、メタバースであれば3Dでのコンテンツ表示が可能なため、立体的な作業が求められる製造業の現場とは非常に相性が良いです。

⑤メタバース上でのプロモーションによる訴求力向上

メタバース上でハイブランドがプロモーションを実施しているニュースなどが話題になっていますが、自動車など製造業の分野でも製品のプロモーションにメタバースを活用する動きが始まっています。
もちろん、実店舗に足を運び、実物を確認したり確かめてみたりする体験にはかなわないものの、これまでデジタル上での商品の訴求やECでの販売が難しかった製品のプロモーションに活用するという観点だと、新たなプロモーションチャネルの1つとして捉えることができるかと思います。

 

例えば、2Dの画像だけでは特徴や魅力が伝わりずらい自動車の販売において、メタバース上で試乗ができ、デザインや内装を3Dで確認できるようにすれば、その自動車に興味をもち実際に試乗に行ってみようというお客様が増えるかもしれません。

 
コロナウイルスの感染拡大の影響により、実店舗での販売が制限を受けるなか、ますますプロモーション用途での活用が進んでいきそうです。

メタバース・デジタルツインの製造業界での活用事例8選

メタバース・デジタルツインの製造業界での代表的な活用事例として以下の8つが挙げられます。

 

  • ①BMW:世界中の自動車工場を3Dスキャンしメタバース化
  • ②川崎重工:工場を丸ごとメタバース化を目指すと発表
  • ③ダイキン:メタバースを活用し製造ラインのロスを削減へ
  • ④旭化成:人手不足の解消と技術継承にメタバースを活用
  • ⑤日産自動車:メタバース上での新車発表・試乗会を開催
  • ⑥トヨタ:都市やサービス開発にデジタルツインを活用
  • ⑦テスラ:車両を遠隔で自動アップデート
  • ⑧ベンツ:トレーニングセンターにHololensを導入

 

それぞれの事例についてわかりやすく紹介していきます。

  

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①BMW:世界中の自動車工場を3Dスキャンしメタバース化

BMW:世界中の自動車工場を3Dスキャンしメタバース化
(画像:BMW)

BMWは世界各地の自動車向上を3Dスキャンし、デジタルデータ化することを発表しました。
工場の生産ラインにデジタルツインを活用することで、生産効率の向上を図ります。

 
BMWは生産プロセスのDXを進める戦略的な取り組みである「BMW iFACTORY」の中核に工場にデジタルツインを活用する「バーチャル工場」を位置づけています。
工場の敷地内の全領域を可搬式3Dレーザースキャナーやドローンを用いてスキャン予定で、2023年の上半期に完了予定とのこと。
その後、NVIDIAの提供するメタバース空間ツールである「Omniverse」によってスキャンしたデータを使ってバーチャル工場を作成します。

 

同社はバーチャル工場の取り組みを数年前から実施しており、データを活用した設備改善、複数の関係者がリアルタイムCGによるコミュニケーションの円滑化、最新データの多くの関係者への共有などにより生産ラインの生産性向上に繋がっているとのことです。

②川崎重工:工場を丸ごとメタバース化を目指すと発表

川崎重工:工場を丸ごとメタバース化を目指すと発表
(画像:川崎重工)

川崎重工業はマイクロソフトのカンファレンス「Build2022」で、工場全体をメタバース化する「インダストリアルメタバース」の構築に取り組むと発表しました。
この取り組みにより、工場内の全工程を仮想空間に再現できるデジタルツインを構築し、離れた場所にいる人が各工程の状況を確認したり、操作したりできるようにすることを目指しているそうです。

 

同社は、マイクロソフトのIoTクラウド/IoTマネジメントソリューション、MRデバイス「HoloLens 2」、エッジAIソリューション「Azure Percept」により、複数の拠点で同時に、遠隔地の専門家からリアルタイムにアドバイスや支援を受けられるようにしました。これにより、ロボットの故障への迅速な対応、トラブルを未然に防ぐ予知保全が可能になります。

 

また、「Azure Digital Twins」も利用しており、過去、現在、未来の稼働状況を仮想空間で把握することで、物理的に離れた工場の問題の原因を特定し、対処・解決することができるようになるとのことです。

 

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③ダイキン:メタバースを活用し製造ラインのロスを削減へ

ダイキン:メタバースを活用し製造ラインのロスを削減へ
(画像:ダイキン工業)

2021年に空調製品を生産するダイキン工業は、堺製作所臨海工場(大阪府堺市)向けに、デジタルツインを搭載した新しい生産管理システムを開発しました。

 

この新たなシステムにより、同社は潜在的な問題を事前に予測し、迅速に対応することが可能になります。製造装置や組立作業、ワークフローの状態を監視し、仮想空間上に再現します。そして、過去の事象を詳細に分析し、将来起こりうる事象をシミュレーションすることで、潜在的な問題を予測します。

 

デジタルツイン生産管理システムの導入の結果として、2021年度には2019年度比で30%以上のロス削減を見込んでいるとのことです。

④旭化成:人手不足の解消と技術継承にメタバースを活用

旭化成:人手不足の解消と技術継承にメタバースを活用
(画像:旭化成)

2021年の旭化成は、事業変革に向けたデジタルツイン活用を含むロードマップを発表しました。デジタル導入フェーズの一環として、すでに水素製造プラントにおけるアルカリ水電解システムのデジタルツイン環境を構築しています。

 

同社はプラント設備に10年以上携わってきた経験豊富なエンジニアが限られているという人材難の課題を抱えています。そこでデジタルツインの環境から、製造、貯蔵、輸送の各プロセスを監視し、遠隔操作や運転監視を行うことができます。

 

例えば、限られた経験豊富なエンジニアがデジタルツインを駆使し、必要に応じてデジタルツイン環境を確認するだけで、遠隔地からでもあたかも実際の製造現場にいるかのような状況を作り出すことができるのです。
この仕組みを活用することで、国内に限らず海外の工場に対しても遠隔で指示を出したり作業をすることが可能になります。

 
さらに、同社は作業員の動きをデジタル化し、姿勢や環境負荷のシミュレーションを行うことで、作業負荷の軽減、効率化にも取り組むとのことです。

⑤日産自動車:メタバース上での新車発表・試乗会を開催

日産自動車:メタバース上での新車発表・試乗会を開催
(画像:日産自動車)

日産自動車はメタバース上で、新型軽電気自動車「日産サクラ」の発表・試乗会を開催しました。イベントは参加者は世界最大のVR SNSプラットフォーム「VRChat」で開催されました。発表会では日産副社長のアバターが登場し、ボイスレターが再生されました。

 

また、試乗会では日本の四季を感じられるドライブコースでバーチャルなサクラを運転することができます。自分で運転席に座って運転したり、後部座席に座ってみたりと、現実の試乗さながらの体験ができ、新車の特徴を確認することができます。メタバース上での試乗は通常の試乗とは違い、書類での手続きなども不要で、いつでもどこからでも体験可能なのが強みです。

 

このような試験的な取り組みを重ねるなかで、将来的に製品のプロモーションチャネルとしてメタバースが本格的に活用できるユースケースが確立されていくことが期待されます。

 

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⑥トヨタ:都市やサービス開発にデジタルツインを活用

トヨタ:都市やサービス開発にデジタルツインを活用
(画像:Woven City)

トヨタはあらゆるモノやサービスが繋がる実証都市である「Woven City」を、静岡県に開設することを発表しました。

このプロジェクトでは、実際に人々が生活を送る環境で、自動運転やMaaS、パーソナルモビリティやロボットなど、幅広い先端テクノロジーの実証実験を行うとのこと。

 

このプロジェクトで計画されている多数の実証の鍵となるのがデジタルツインです。

デジタルツインは建物や人やモビリティから得られたデータから、それらをバーチャル空間上で再現し、様々なシミュレーションを行う技術です。

 

WovenCityでは、これらの街のあらゆる箇所から得られた多用なデータを統合し、デジタルツインを構築することで、都市開発の計画や新たなサービス開発に活用することを計画しています。

例えば、テナントにどのような店舗を誘致するか検討している際に、テナント周辺の人流データを基に、最適な店舗を推定したり、新たなサービスを検討している際に、街のどのような場所でどんな人が使ってくれそうかをシミュレーションしたりするといった活用が考えられます。

 

Woven CItyは2021年初頭から開発を進めており、2024年の完成を目指しています。

⑦テスラ:車両を遠隔で自動アップデート

テスラ:車両を遠隔で自動アップデート
(画像:テスラ)

テスラの販売する車両にはデジタルツインを活用したシステムが標準搭載されており、車両が自動でアップデートされる仕組みを構築しています。各車両に搭載されたセンサーが車両の状態や走行状況、周辺環境などのデータを基に車両にとって最適な走行方法を分析し、自動でソフトウェアがアップデートされる仕組みとなっています。

 

この仕組みにより、車両診断を店舗で行う必要がなくなり、ユーザーは店舗に出向く手間、テスラは車両診断にかかるコストの大幅な削減に成功しています。

 

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⑧ベンツ:トレーニングセンターにHololensを導入

ベンツ:トレーニングセンターにHololensを導入
(画像:ベンツ)

ベンツは、研修の学習効率向上やコスト削減のため、自社のトレーニングセンターに100台以上のHololensを導入しています。

 

ベンツのトレーニングセンターでは、修理作業員の修理技術の取得や販売員の新車の特徴の理解のために、Hololensを通じたMR教育コンテンツを活用しています。このコンテンツを利用することで、車両の内部構造を3Dのデジタルオブジェクトとして確認でき、複雑な構造を直観的に理解することができるとのことです。

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このナレッジの著者

メタバース総研 代表取締役社長

今泉 響介

株式会社メタバース総研(現・CREX)代表取締役社長。
慶應義塾大学経済学部卒業。学生起業した事業を売却後、日本企業の海外展開/マーケティングを支援する株式会社Rec Loc を創業・社長就任を経て、現職に。メタバースのビジネス活用に特化した国内最大級の読者数を誇るメディア「メタバース総研」の運営やメタバースに関するコンサルティング及び開発サービスの提供を行っている。著書に『はじめてのメタバースビジネス活用図鑑』(中央経済社)

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