メタバース関連の法整備|よくある5大トラブルと対策を解説

関連技術の進歩やオンラインコミュニケーション需要の高まりなどを背景とし、今後急速に人々の生活や仕事に普及していくと考えられるメタバース。

一方で、メタバース上では様々なトラブルが発生するリスクがあり、各種法規制にも留意する必要があります。

 

それに対し、「メタバースのビジネス活用を検討しているが、どのような法規制に注意すればよいかわからない」「メタバース上でどのようなトラブルが想定されるか知っておきたい」という方も多いのではないでしょうか?

 

そこで今回は、企業がメタバースをビジネスに活用するにあたって注意すべき法規制を、想定されるトラブルの事例や対策とともに分かりやすくご紹介します。

本記事は、以下のような方におすすめの記事となっています。

 

  • メタバースのビジネスへの活用を検討している
  • メタバースに関わる法規制にはどのようなものがあるか知りたい
  • 想定されるトラブルやそれに対し企業がどのような対策を採るべきかが知りたい

 

本記事を読めば、メタバースに関わる法規制から想定されるトラブルと対策まで一気にキャッチアップできる内容となっておりますので、ぜひ最後までご一読ください。


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そもそもメタバースとは

そもそもメタバースとは VRChat
(画像:VRChat

メタバースとは一言でいうと、人々が様々な活動を行うことのできるインターネット上の3次元の仮想空間のことを指します。

 

メタバースの語源は「超越」を意味する「meta」と「世界」を意味する「universe」を組み合わせた造語だと言われています。メタバースという言葉が世界で初めて使われたのは、1992年にニール・スティーヴンスン氏が発表したSF小説「スノウ・クラッシュ」です。

 

メタバースにおいて、ユーザーはアバターと呼ばれる自身の分身の姿でメタバース空間にアクセスし、他のユーザーとコミュニケーションや経済活動を行うことができます。例えば、集まって会話をしたり、イベントやスポーツ、買い物などを楽しむことができます。

 

一般ユーザーに広く普及しているメタバースサービスとして、「Fortnite」や「Roblox」、「どうぶつの森」などのゲーム型のメタバース、「VRChat」や「Cluster」などのSNS型のメタバースが挙げられます。

 

メタバースへのアクセス方法としては、スマホやPCからもアクセス可能ですが、Apple Vision ProやMeta Questのようなヘッドマウントディスプレイからアクセスすることにより、より世界に没入したような体験が可能になります。

 

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メタバースに関して問題となりうる法律と企業のとるべき対策

メタバースに関して問題となりうる法律と企業のとるべき対策

メタバースに関わる法規制は取引、知的財産、消費者保護、個人情報など幅広いですが、十分な法整備が進んでいないのが現状です。

 

メタバースにおいては、取引の対象が、物理的に存在するモノではなくデジタルアセットであること、ユーザーがアバターを通じて参加すること、非対面での取引が行われることといった現実世界とは異なる特徴があります。

 

特に重要なポイントとしては、ユーザーが安心してデジタルアセットの取引をすることができるようにすること、ユーザー間でトラブルが発生したときの対応策を考えることなどが挙げられます。

 

以下では、企業がメタバースサービスを提供するにあたってどのような法規制に留意すればよいかを、事例や対策とともにわかりやすく紹介していきます。

 

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①メタバース上でのユーザーや企業の財産・権利の保護に関する法律

メタバース上でのユーザーや企業の財産・権利の保護に関する法律

メタバース上のユーザーや企業の財産・権利の保護に関して問題となるポイントとして以下の2つが挙げられます。

 

  • 1.ユーザーのデジタルアセットが盗難等にあった際、法律で保護されるのか?
  • 2.自社のコンテンツが勝手に利用されたときにどうすべきか?

 

それぞれについてわかりやすく紹介していきます。

1.ユーザーのデジタルアセットが盗難等にあった際、法律で保護されるのか?

ユーザーのデジタルアセットが盗難等にあった際、法律で保護されるのか? OpenSea
(画像:OpenSea)

メタバースにおいてユーザーは、NFTなどのデジタルアセットを保有したり、売買したりすることができ、この動きは今後も加速すると考えられます。そのような中、ユーザーのデジタルアセットが、ハッキング等により盗まれたり、詐欺により奪われたりした場合に、ユーザーのデジタルアセットに対する権利が法律で保護されるのか、企業としてユーザーの権利をどのように保護していくのかという点は、極めて重要なポイントになります。

実際のトラブル事例:NFTの盗難額、1年で1億ドル超

ブロックチェーン分析会社のエリプティックは2022年8月に、NFTの盗難被害が同年7月までの1年間で1億ドル(約137億円)を超えたと発表しました。また、NFTコレクション「Moonbirds」などを手掛けるProofの共同創設者Kevin Rose氏は2023年1月、自身のウォレットがハッキングされ、高額なNFTが盗まれたと公表しました。

 

このように、セキュリティの穴をついたNFTなどのデジタルアセットの盗難被害は相次いで発生しています。

 

また、デジタルアセットを盗まれたユーザーが、プラットフォームを提供する企業に対して、盗まれたデジタルアセットに相当する金額を補償するよう求めてくる可能性もあります。

関連する法律と企業のとるべき対策

現状の法規制のもとでは、盗まれたNFTを取り戻す確実な手段は存在しません。

 

例えば、民法では、所有権とは有体物に対する権利とされているため、NFTのようなデジタルアセットは、民法上の所有権として認められないと考えられています。そのため、仮にデジタルアセットを盗まれた場合でも民法上の所有権を主張して、デジタルアセットを取り戻すことはできない可能性が高いです。

 

世界最大規模のNFT取引プラットフォームを運営するOpenSeaも、自社のウェブサイトにおいて、盗難によりウォレットから転送されたNFTを取り戻すことはできないと明示しています。

 

そのため、企業としては、ユーザーが安心してデジタルアセットを売買できるよう、セキュリティを強化するとともに、利用規約等においてユーザーのデジタルアセットに対する権利を明確化し、盗難に遭った場合にユーザーに対してどのような補償をするのかなどを明記しておくことが望ましいです。

 

また、ユーザーに対して、パスワード管理の徹底を求めたり、典型的な詐欺・盗難の事例を紹介したりするなどして、注意喚起することも重要です。

 

※参照:OpenSeaの盗難品ポリシー

2.自社のコンテンツが勝手に利用されたときにどうすべきか?

実際のトラブル事例:エルメスの高級バッグ・バーキンを模倣した「メタバーキン」が無断で出品

実際のトラブル事例:エルメスの高級バッグ・バーキンを模倣した「メタバーキン」が無断で出品
(画像:Metaverse Post)

2021年、NFTの取引プラットフォームで、アーティストであるメイソン・ロスチャイルド氏により、エルメスの高級バッグであるバーキンを模倣した「メタバーキン」が出品されました。

 

しかし、エルメスブランドの許可を得ずに販売されていたため、知的財産権の侵害行為として、アメリカで裁判にまで発展する結果となりました。連邦地方裁判所は、知的財産権の侵害を認め、ロスチャイルド氏に約1750万円の損害賠償を命じました。

 

メタバース上では様々なデジタルアセットが取引されることから、メタバースのユーザーがブランドやコンテンツを模倣したデジタルアセットを無断で作成・販売した場合などに、ブランドやコンテンツの権利者との間でトラブルが発生する事態は今後も増えていくと考えられます。

 

また、場合によっては、メタバースのプラットフォームを提供する企業に対しても責任追及がなされる可能性があります。

関連する法律と企業のとるべき対策

メタバース上で、ユーザーが他人のコンテンツを無断で模倣・利用した場合には、著作権などの知的財産権との関係が問題となります。

 

例えば、コンテンツが著作物に当たる場合は、著作権として保護され、無断利用したユーザーは、コンテンツの作成者から著作権侵害を理由に利用の差止め等を求められる可能性があります。

  

また、ユーザーが商標として登録されたブランドやロゴなどを勝手に利用した場合には、その商標の保持者は、商標権の侵害を理由として利用の差止め等を求めることができます。

 

企業としては、利用規約等において、コンテンツの権利が作成者に帰属することを明記するとともに、他社のブランドやコンテンツを無断で利用しないようにユーザーに注意喚起することが重要です。また、ブランドやコンテンツの無断利用をしているユーザーがいないかを随時監視し、適切に取り締まる体制を構築することも効果的であると考えられます。

②メタバース上でのユーザーの安心・安全の確保に関する法律

メタバース上でのユーザーの安心・安全の確保に関する法律

メタバース上のユーザーの安心・安全の保護に関して問題となるポイントとして以下の3つが挙げられます。

 

  • 3.メタバース上でユーザーが勝手に他人の写真を使ってよいのか?
  • 4.ユーザーとの消費者トラブルにならないために企業が気を付けるべきポイントは?
  • 5.ユーザーの個人情報の企業による適切な取り扱い方法は?

 

それぞれについてわかりやすく紹介していきます。

3.メタバース上でユーザーが勝手に他人の写真を使ってよいのか?

メタバース上でユーザーが勝手に他人の写真を使ってよいのか? Ready Player Me
(画像:Ready Player Me)

想定されるトラブル事例:著名人そっくりのアバターの無断利用

メタバース上では、多くのユーザーがアバターを通じて、他人とコミュニケーションをとったり、ゲームをしたりすることになります。中には、著名人の顔をそのまま再現したアバターを使用するユーザーも現れる可能性があります。

 

このような場合に、自分の顔を勝手に利用された著名人が、権利侵害であるとしてユーザーや企業を訴えるなどのトラブルに発展するおそれがあります。

関連する法律と企業のとるべき対策

ユーザーが、自身のアバターに他人そっくりの顔を勝手に利用した場合には、肖像権や名誉権の侵害を理由として、利用の差止めや損害賠償を求められる可能性があります。肖像権とは、自分の容貌を意に反して、撮影されたり、公表されない権利をいいます。

 

これにより、メタバースのプラットフォームを提供する企業も責任追及の対象となったり、風評被害が発生したりするリスクがあります。

 

そこで、企業としては、他人の顔をそのまま用いたアバターの利用を禁止したり、利用規約等において他人の顔写真を勝手に利用しないようユーザーに注意喚起したりするなどの対策をとることが考えられます。

4.ユーザーとの消費者トラブルにならないために企業が気を付けるべきポイントは?

メタバースが普及するにつれ、メタバースサービスを提供する企業が、ユーザーに対し、非対面でデジタルアセットや商品を販売することが増えてくると考えられます。これに伴い、ユーザーが誤って商品を購入してしまうなどしてユーザーとの間でトラブルが発生するリスクが高まってくると考えられます。

想定されるトラブル事例:メタバース上の店舗での商品の誤購入

ユーザーが、メタバース上の店舗において、ある商品を購入しようとしたところ、間違えて別の商品をクリックしてしまい、後に企業に対して購入の取消しや返金を求めてくることが考えられます。

関連する法律と企業のとるべき対策

上記のようなケースの場合、ユーザーは原則として購入の取消しを主張することができます。特に、メタバースにおける取引のようなオンライン上での取引の場合、クリックミス・入力ミスが生じやすいため、「電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律」により、ユーザーに重過失がある場合にも契約の取消しが認められます。

 

ただし、販売企業が、ユーザーが誤って購入することがないよう適切な確認措置を定めている場合には、ユーザーは取消しをすることができなくなる場合があります。

 

そのため、企業としては、ユーザーが商品を誤って購入することがないよう、ユーザーが購入ボタンをクリックした後、本当にこの商品を購入してよいかを確認する画面を表示するなどの措置をとることが考えられます。

5.ユーザーの個人情報の企業による適切な取り扱い方法は?

メタバースサービスを提供する企業は、ユーザーから氏名やメールアドレス等の様々な情報を取得することとなり、その中には、秘匿性の高い重要な個人情報が含まれる可能性もあります。企業としては、ユーザーの個人情報を適切に取り扱い、流出・漏洩などの被害が生じないように注意する必要があります。

実際のトラブル事例:Robloxのユーザーの個人情報が大量に流出

実際のトラブル事例:Robloxのユーザーの個人情報が大量に流出
(画像:Roblox)

2023年7月、メタバースゲームプラットフォームRobloxにおいて、Robloxの開発者カンファレンスに参加した約4,000人のユーザーの情報が流出していたことが明らかとなりました。流出した情報の中には、氏名や生年月日のほか住所、メールアドレス、IPアドレスなど秘匿性の高い情報も含まれていたとのことです。

 

氏名等の流出はなりすましなどの悪質行為につながり、また、IPアドレスの流出はユーザーをサイバー攻撃や不正アクセスの危険にさらすことになるおそれもあります。

 

このように、メタバースサービスを提供する企業は、大量のユーザー情報を保有することになるため、常に流出・漏洩というリスクがつきまとうことになります。

 

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関連する法律と企業のとるべき対策

ユーザーの情報の中でも氏名やマイナンバーなど個人を特定することができる個人情報を取得した企業は、個人情報保護法に基づき、当該個人情報を適切に取り扱う必要があります。

 

例えば、ユーザーから個人情報を取得するにあたっては、あらかじめ個人情報の利用目的を公表する必要があり、原則として、その利用目的の範囲内でしか個人情報を利用してはいけません。また、原則として、ユーザーの同意なしに、個人情報を第三者に開示することも禁止されています。

 

企業としては、ユーザーから取得する情報を必要最小限のものに限るとともに、個人情報保護法や関連する法律・ガイドラインを遵守してユーザーの個人情報を適切に取り扱うことが必要です。また、個人情報の流出という事態が発生しないようプラットフォームのセキュリティを強化したり、ユーザーに対して定期的なパスワードの変更を促したりすることも効果的です。

※免責事項

本記事は、メタバースにかかる法規制を一般論として解説したものであり、実際のサービスの内容や事実関係によって、結論が異なる可能性もあります。実際にメタバースのサービスを提供するにあたっては、弁護士などの専門家に相談するなどして適切に対応されることをおすすめいたします。本記事の著者及び当社は、本記事の内容についていかなる保証を行うものでも、責任も負うものでもございませんのでご了承ください。

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このナレッジの著者

メタバース総研 代表取締役社長

今泉 響介

株式会社メタバース総研(現・CREX)代表取締役社長。
慶應義塾大学経済学部卒業。学生起業した事業を売却後、日本企業の海外展開/マーケティングを支援する株式会社Rec Loc を創業・社長就任を経て、現職に。メタバースのビジネス活用に特化した国内最大級の読者数を誇るメディア「メタバース総研」の運営やメタバースに関するコンサルティング及び開発サービスの提供を行っている。著書に『はじめてのメタバースビジネス活用図鑑』(中央経済社)

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