“利用される”メタバースのためのゲーミフィケーションとは?|セガ エックスディー
目次
プロフィール①:株式会社セガ エックスディー 執行役員 CSO片山氏
大学院時代にイーラーニングで起業、事業売却。その後、電通にて新規事業開発に一貫して従事。2019年7月、電通とセガ エックスディーの資本業務提携を契機に経営へ参画。CSOとして広報、マーケティングと新規事業を管掌している。
プロフィール②:株式会社セガ エックスディー プロデューサー野尻氏
コンサルティングファームでの新規事業立ち上げ・ジョイントベンチャー設立などを経て、2021年にセガ エックスディーに入社。コンサルティングスキル・事業開発スキル・ゲーミフィケーションの知見を組み合わせ、様々なクライアントと新たな価値を共創している。
また、NFTコレクターであるだけではなく、当社のweb3領域の取り組みを推進する一人として携わる。
株式会社セガ エックスディー会社紹介
2016年創業。セガグループと電通グループの傘下にあり、現在従業員は86名。エンタテインメント技術を活用した先端技術研究やサービスデザインを行っており、ゲーミフィケーションを活用した顧客の課題解決に強みを持っている。
ユーザーの「やってみたい」を引き出すのがゲーミフィケーションの本質
ー早速ですが、セガ エックスディー(以下 セガXD)の強みである「ゲーミフィケーション」についてご説明頂けますでしょうか。
片山:ゲーミフィケーションとは、一般的にはゲームの性質をゲーム以外の領域で活用することを指しますが、セガXDの考えるゲーミフィケーションの定義は人間の心理や行動特性の本質に基づいて、ユーザーや生活者の内発的欲求を引き出し顧客の気持ちを動かし行動を変える方法、というものです。ログインボーナスや、ポイントの付与は、あくまでアウトプットのテクニックであり、それ自体が目的になってはいけないと思っています。
内発的欲求を引き出すための要素は以下の3つです。
①認知的なエラーを利用した行動誘導(バイアス)
②ついやってしまう行動を誘導する(ナッジ)機能設計
③ポジティブ、ネガティブ双方の感情的な体験による情緒的な価値または機能的な価値を与える体験による属性と要素を戦略的に組み合わせたエンゲージメント強化
私達は、ユーザーに対して情緒的な価値をどのように感じ、機能的な価値に基づいてどのように行動をとってほしいのか考えた上で、アウトプットの1つの形としてゲームの要素を活用することを目指しています。
*上記③にあたるセガXDオリジナルフレームワーク「属性と要素」。軸の記載は無いが、上下がポジティブ・ネガティブ(上にいくほどポジティブな要素)、左右が機能的価値・情緒的価値(右に行くほど情緒的価値な要素)
ゲーミフィケーションによって「はじめやすく、やめにくい」サービスの実現が可能に
ーゲーミフィケーションによって、世の中のサービスにどのような価値を提供できると考えられていますか。
野尻:ゲーミフィケーションがサービスにもたらす価値は、大きく3点あると思います。1点目は、行動変容的な価値によって「最初のきっかけを作る」という観点です。一見すると参加してみること、始めることに対するハードルが高いサービスでも、ゲーミフィケーションを活用することで心理的ハードルを下げることが可能になります。
2点目は、「続けたくなる、ついつい続けちゃう」というような粘着性の観点です。簡単にいうと、三日坊主で終わらせないための仕掛けのことです。
3点目は、「没頭してしまう」というような“immersion”の観点です。これを実現するために、ユーザーのクリエイティビティを刺激する仕掛けは非常に有効で、現に最近リリースされたゲームのヒットタイトルには少なからず創造的な要素が含まれていることが多くあります。
これらのゲーミフィケーションの観点をクライアントの課題に適応させ、課題解決につなげるのがセガXDの事業です。本日は、次の2つの事例を紹介させて頂きたいと思います。
ゲーミフィケーションの活用事例①神奈川県総合防災センター「楽しく学べるゲーム体験型防災訓練」
野尻:1つ目の事例は、神奈川県総合防災センターの防災訓練のプロデュースを我々が手がけた例です。様々な自然災害が発生しやすい日本において、「防災訓練」はいざという時の備えとして大変重要な取り組みであり、誰しもその重要性について理解していると思いますが、実際に行われる防災訓練では「参加しなくてはいけないから参加した」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
我々セガ XDは、もっと能動的に意欲的に防災訓練に参加できたなら、より学びのある効果的な「防災訓練」が実現できるのではと考え、ゲーム上の設定として「未確認隕石が神奈川県に落下し特別警戒警報が発令された」というシナリオと、訓練中の各体験後に行われるクイズでパスワードを集め脱出するなどのゲーミフィケーションの要素を取り入れた防災訓練を実施しました。
結果として、異例となる募集定員を大幅に超えた申し込みが殺到し、参加者100%を達成し、本番の訓練も大成功となりました。
ゲーミフィケーションの活用事例②花王株式会社「肌レコ」
野尻:2つ目の事例として、花王様が運営するコミュニティサイト「Kao Beauty Brands Play Park」で提供する「肌レコ」にも企画段階から関わらせて頂きました。肌年齢の測定などのサービスは単発の利用が多く、継続利用につながらないという課題がありました。
ユーザーが悩んでいる部分の毎週の変化を観察し、継続的なケアに対してログインボーナスを与えたり、たまったマイル(ポイント)で化粧品が当たる抽選に参加できるなど、ゲーム的要素を取り入れたサービスになります。
ーありがとうございます。単に報酬目当てやギフティングではなく、本質的に大切な意義や目的を達成するための手段としてゲーミフィケーションを活用することが重要であると、具体的な事例を通じてよく理解できました。
ナッジや人間中心設計の観点を取り入れ、「利用される」メタバースコンテンツを
ーメタバース/XR業界の抱える、「そもそも利用者が少ない」「ユーザーにとって面白い、価値のあるメタバースが少ない」という課題に対して、どの様にお考えでしょうか。
野尻:現在のメタバースコンテンツは、「メタバースを使って何かをしたい」という起点で制作されたサービスが多いと感じており、その点が大きな課題だと考えています。これを解決するために「ユーザーにどんな体験を提供したいのか」という視点からコンテンツを制作する必要があります。
ユーザーに提供したい体験を考えていく中で、その体験の提供に最も適したコンテンツがメタバースコンテンツである、となれば、自然とユーザーに使われるメタバースコンテンツが広まると考えています。
ゲーム内の様々な仕掛けがメタバースでも活用可能
ーメタバース/XR業界の抱える課題に対してゲーミフィケーションはどのように活用できるのでしょうか。
野尻:前提として、メタバースはそもそもゲームが発祥であり、非常に構造が似ているため、ゲーム内で行われているユーザーの体験価値向上のためのあらゆる仕掛けが活用できると考えています。
その上で、大きく以下の3つの目的に対して活用できると思っています。
①アバターの自分事化
②「誇張」による体験の質向上
③ユーザーのクリエイティビティの発揮
それぞれについて、説明したいと思います。
①アバターの自分事化:ユーザーとアバターの一体感を醸成
野尻:1つ目は、アバターの自分事化、要するにユーザーにアバターが自分の分身であるという感覚を持たせるための仕掛けです。ゲーム開発では、この点に非常に力が入れられている傾向にあります。
具体例として、チュートリアルに注目するとわかりやすいかと思います。チュートリアルと言っても、近年のゲームの多くはいきなりシナリオが始まり、操作方法を知りつつ段々ゲームに入り込んでいく方式です。
これは、単なる操作方法の説明の場としてではなく、ゲームの世界観やキャラクターとユーザーの目線を合わせ、ゲームの目標をユーザーに理解してもらうための場としてチュートリアルを活用していることを示しています。一方で、多くのメタバースコンテンツでは、広大な空間に急に放り出され、何をしたらいいのか、どう楽しんだらいいのかがわからない状態になることが多いように感じられます。
また、自分事化のためのもう一つの手法として、所属意識を活用するというものが挙げられます。実際に、ポケモンGOやスプラトゥーンのフェスなどのイベントでは、(チームやギルドへの)所属意識を活用することで、コミュニケーションを生んだり、勝ちたいという内発的な動機づけが行われています。
②「誇張」による体験の質向上:リアリティは細部に宿る
野尻:2つ目は、メタバースでの体験価値をリアルに近づけ、最終的にリアルを超えた体験価値を設計するために体験を「誇張する」、インタラクションデザイン等の仕掛けです。
具体的には、移動する際のリアリティのある足音の出し方や、向かい風の中を走るときの通常時より強い押し込み感、重いものを持っているときのアバターの腰使いや動き方の変化など、手段は多岐にわたります。こうした、これまでゲーム業界で培われてきたあらゆる細部へのこだわり技術やノウハウがリアリティを演出し、メタバースでの体験の質を高めるために活用することが可能です。
③ユーザーのクリエイティビティの発揮:仮説と検証のプロセスを提供
野尻:3つ目は、ユーザーに対して創造性を発揮させるための工夫です。この点は最近のゲーム業界の動向に現れていますが、ゲームを継続的に遊んでもらうためにユーザーによる創造的なアクティビティが含まれるゲームは非常に多くなっています。
クリエイティブなゲームとして代表的なのはマインクラフトやフォートナイトであり、ヒットコンテンツのために欠かせない要素となっています。とはいっても、創造性の発揮のために、大掛かりなクラフト要素が必須という訳ではありません。重要なのは、ユーザー自身が「AをしたらBという結果が出るのではないか」と考え仮説を立て、仮説をコンテンツ内で実行し、最終的にその仮説が正解であればBという結果が得られる、という体験設計を行うことです。
具体的な事例として、セガ社の『龍が如く』シリーズが挙げられます。このゲームはアクションバトルと重厚なストーリーが魅力のゲームですが、ゲーム内に実在の飲食店も多く登場し、メニューの選び方によって、時折コンボボーナスが発生するという遊び心が存在します。これも、「この組み合わせはどうだろう?」とユーザーのクリエイティビティを刺激する設計になっているのです。こういったノウハウは、メタバースにおいても同様に活用可能です。
メタバースの普及により、人のあらゆる活動が測定され、フィードバックされるように
ーメタバースが当たり前になった後、ゲーミフィケーションはメタバースでどう活用されるのしょうか。
野尻:メタバースの体験がリアルの体験より価値が高くなり、人々の活動の中心がメタバースへと移行することは、ゲーミフィケーションの対象となる市場が広がることと同義です。現在、リアルの活動にゲーミフィケーションを組み合わせることは、リアルデータをいかに測定するか、という技術的ハードルによって難易度が課題となる場合があります。
一方で、デジタル空間のメタバースでは全ての行動をデータ化することが可能です。これにより、メタバース上のあらゆる行動や事象に対してゲーミフィケーションを活用できるようになると考えています。
セガXD社の今後の展望
ーセガXDの事業の今後の展望はどのようなものでしょうか。
片山:せっかくなので今回の主題であるメタバースを主軸にお話をすると、セガXDの事業展望は、大きく3つの展開を考えています。
1つ目は、ゲーミフィケーションを通して顧客の課題を解決する事業です。メタバースはセガXDとしても、これから成長する分野と考えているため、今後ソリューションとして注力する領域の1つとして考えています。
2つ目は、そうしたメタバース関連のソリューションを提供するにあたって、パートナー企業との連携強化です。現在、電通グループとパートナーシップを結んでおりますが、今後も順次拡大していきたいと考えています。
3つ目は、自社サービスによる新規事業です。教育、環境、健康といった分野の社会課題に対して、ゲーミフィケーションの力で課題解決を行っていきたいと考えています。当然、メタバースコンテンツもその手段の1つとして、有力な選択肢になってくると考えています。
ー今回はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。今後も業界の注目企業/ビジネスパーソンを取材し、メタバースのビジネス活用の最前線に迫っていきますので、どうぞお楽しみに。
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