500万DLのメタバース「STYLY」による地方創生とは?|Psychic VR Lab 野村烈氏

野村さんプロフィール

野村 烈氏 Psychic VR Lab執行役員・STYLYプロダクションマネージャー。

2009年にソニー株式会社でリチウムイオン電池保護回路設計/AR関連技術開発を経験後、起業し、A440/ABALでは、AR/VR分野でソフト・ハード問わず横断的なシステム開発、ディレクションに携わる。特に、芸術家とのコラボレーションでは、メディア芸術祭大賞受賞作品「縛られたプロメテウス / 小泉明郎」やTheaterCommons’21「Suspended / 中村佑子」など、国内外で評価される作品において、機材運用からAR/VR表現のディレクションまで広範囲にサポートした。2021年に、STYLYプラットフォーム開発のProduction Managerとして参画、2022年に執行役員就任。

野村 烈氏 Psychic VR Lab執行役員・STYLYプロダクションマネージャー
(画像:Psychic VR Lab)

Psychic VR Lab社の紹介

Psychic VR Labは、実在の都市空間と連動したXRコンテンツの制作・配信ができるリアルメタバースプラットフォーム「STYLY」の運営をする企業です。「STYLY」は誰でも簡単にXR空間の制作ができるだけではなく、スマートフォン、VRゴーグル、ARグラスなどのあらゆるデバイスで体験をすることができます。創業当初からファッションやアートとXR技術を掛け合わせたプロジェクトを様々なクリエイターと共に手がけてきた同社は、仮想空間の中に閉じたバーチャルメタバースではなく、現実世界をテクノロジーで拡張させる「リアルメタバース」を提唱してきました。

Apple Vision Proも発表された今、XR技術を活用した新たなビジネスの創造に取り組んでいるPsychic VR Labには、今後ますます注目が集まることが予想されています。

実在の都市空間と連動したXRコンテンツの制作・配信ができるリアルメタバースプラットフォーム「STYLY」

実在の都市空間と連動したXRコンテンツの制作・配信ができるリアルメタバースプラットフォーム「STYLY」
(画像:Psychic VR Lab)

ーSTYLYの概要を改めて、ご紹介頂けますでしょうか。

野村:STYLYはVR表現とアバターを使って、アートやファッションを中心にクリエイターたちのクリエイティビティを開放したいという思いで開発し始めたプラットフォームです。STYLYはそのような意味でアーティストやUGC(User Generated Contents)を見据えたアプリになっていて、実際のプログラミングができなくても、Webブラウザで空間に物を配置すれば、それがXR空間として再現されるようになっています。Unityで作ったものもプラグインでSTYLYに取り組むことができるため、他のサービスとも互換性があるプロダクトになっています。

ー他のサービスと比較したときの、STYLYのセールスポイントは何でしょうか。

野村:あえていうとすれば、間口が広いということかと思います。アーティストやUGCを見据えたプラットフォームで、類似サービスと比較してXR表現やUGCの表現などをディープに出来る一方、アーティスト育成のためのスクールやコンテストなどのプロジェクトもずっと推進してきました。また、これまで多くのロケーションベースのXRプロジェクトを実施してきたことも強みです。「STYLY」というAR/MR/VR全てに対応したプラットフォームを持っていること、新たな3次元表現を開拓するアーティスト・クリエイターが社内外に多数いること、自治体を含め、リアルな場所で事業展開をともにするパートナーが多数いることなどがセールスポイントだと思います。

ーSTYLYの現時点での成果についてお聞きかせいただければと思います。

野村:アーティストプールが約6万、作成されたXRの空間が約9万、そしてアプリダウンロード数が500万を超えるなど、着実に成長できていると思います。2023年5月には、Google社が認定する「ARCore Featured Partner」にもKDDI社とともに選出されています。(https://developers.google.com/ar

グラス型デバイスで空間を身にまとうリアルメタバースがXRの次のステージ

グラス型デバイスで空間を身にまとうリアルメタバースがXRの次のステージ
(画像:Psychic VR Lab)

ーSTYLYの目指すリアルメタバースの概要を教えて頂けますか。

野村:私たちはスマホの次に、グラス型のデバイスが世の中を席巻する未来がくると考えています。常に身につけられる性質上、屋内での利用にとどまらず、屋外での利活用が期待されています。現在よく話されている「メタバース」は、どちらかというと、屋内でバーチャル空間に入り込んでいく体験、という印象がありますが、グラス型のデバイスが浸透した世界線では、屋外にいる時でも常に身につけているデバイスを通して、現実に重なったバーチャル空間にいつでもアクセスできるようになります。このような、現実にメタバースを融合させた体験や状態のことを、「リアルメタバース」と呼んでいます。そこには、エンタメなどのコンテンツ、リアルやバーチャルを通したコミュニケーション、情報発信もあります。

新潟市ではリアルメタバースによるエコシステムを構築

新潟市ではリアルメタバースによるエコシステムを構築 Psychic VR Lab
(画像:Psychic VR Lab)

ーPsychic VR Labが携わられた地方自治体の案件について教えてください。

野村:STYLYを活用した地方創生の案件として、2022年度は、つくば市、新潟市、熊本市とご一緒させて頂きました。

中でも新潟市では、新潟市が推進する「NIIGATA XR プロジェクト」という地域活性化の取り組みにおける共創プラットフォームとして、STYLYを採用いただきました。この取り組みは一貫して、私たちからの一方通行の情報発信でなく、あくまで自治体の方が主軸となり、産官学が一体となった活動に主眼をおいて推進できたことがポイントです。

新潟の場合、STYLYを使ったXRコンテンツの制作手法について、地元の企業や学生に教えるスクールを開催し、XRに対しての理解を深めていただきました。そして実際に「にいがた2kmバーチャルウォーク」という企画が実施されて学生たちのデジタルアート作品がAR空間内に展示されていたり、「がたフェスvol.13」というイベントでは、ご当地Vtuber「越後屋ときな」のXRライブや「古町フル広場XR水族館」といったコンテンツも提供し、街の新たな魅力発信やにぎわい施策を推進することができました。

今後私たちが関わらなくても、このようなプロジェクトが実施され続ける、自走したリアルメタバースを提供することが最大の目的ですね。この「新潟モデル」は、今後他の自治体でも随時展開予定です。

地方自治体との取り組みによりリアルメタバースの文化的障壁を取り除く

ーPsychic VR Labが地方創生へのリアルメタバース活用に取り組む理由を教えて頂けますか。

野村:DXや新しい体験を提供したいと言う思いもありますが、文化的障壁を取り除くことも目的の一つです。XR表現・体験が実生活に溶け込むためには、技術的側面だけでなく、そもそもXR自体があまり知られていないということにも問題があると感じています。これを克服するために、まずは新潟市のような取り組みを通して、地域住民のみなさまに触れていただく機会を増やし、リアルメタバースが文化として浸透するようにしたいと考えています。そして地域ごとに異なる課題解決コンテンツを、地元企業や住民の方と共創していくことで、ようやく自分事として感じていただけるようになると思っているので、ただ導入すれば良いというだけではなく、その後の共同作業もワンセットで提案し続けたいですね。

STYLYは、コンテンツ対応力があることと、プラットフォーム自体のメンテナンスを常にPsychic VR Labが実施している点から、地域ごとに異なるニーズにも答えやすいと考えています。もちろん、実際に運用する場合は自治体など、運用母体のコストも多少はかかりますが、それでも一から環境を構築して運用するよりは、同じ金額をコンテンツや体験に投下できるため、より高品質な体験を高速に提供できるメリットがあります。

ーそういった取り組みに企業が参画する際のメリットや、参画するにあたって気を付けるべき点を教えてください。

野村:自治体向けのメリットと重複する点もありますが、ベースとなるアプリ部分を開発する必要がないので、予算をコンテンツや体験部分に集中できるというメリットがあります。こうした取り組みに参加する際は、当たり前かもしれませんが、誰向けのどのようなプロジェクトで、どのような体験を届けたいのか、などの設計が重要だと思います。加えて、ビジネスと言う観点では、マネタイズポイントをどこに置くかも必要です。実施目的がプロモーションなのか体験提供なのかによっても、コンテンツの作りや届け方が変わってきます。一企業だとやりきれない場合もありますので、こういった部分は、ぜひ自治体にもご支援いただきつつ、産官学と私たち含め一丸となって盛り上げていけるといいですね。

 

新潟市「NIIGATA XR プロジェクト」:https://www.city.niigata.lg.jp/business/growing/xr/xrpj/index.html

【NIIGATA XR プロジェクト】フルマチXR水族館
(動画:Psychic VR Lab)

Psychic VR Labのリアルメタバース×地方創生への展望

ー地方創生に向けたメタバース活用の現状をどうとらえ、どの様な課題観を持っていますか。

野村:お話を聞く限りでは、現場では皆様の意識がバーチャルメタバースに向いていると感じています。バーチャルメタバースにも利点はたくさんあるのですが、作った後、活用し切るための運用に難があり、ユーザーのリテラシーも様々なことから、全ての人に届けるところにも難がある、という点が課題です。それに対して、リアルメタバースは、現実の世界が起点となることでアクセスしやすく、見た目にわかりやすいという点も大きなメリットだと思います。

ー最後に、Psychic VR Labの今後の取り組みとしては、どんなことを考えられていますか。

野村:STYLYはプラットフォーマーではあるものの、今日お話しした地方創生の取り組みや、街中でのXRエンタテインメント体験を通して、事業として多くの方にリアルメタバースに触れていただける機会を作っていきます。グラス型デバイス常用時代のデファクトになっていきたい、とも言い換えられますが、そもそもメタバースに馴染んだ文化が生まれなければその未来もありません。弊社だけでなく、業界一丸となって、多くの人が利活用できるエコシステムを作り上げることが大切だと考えています。企業は、良質な体験やコンテンツを提供する、自治体はそれをサポートする、ユーザーはとにかくメタバースに触れてみる、そんな循環が必要です。段々とリアルメタバースが当たり前になったらいいなと思います。

ー今回は貴重なお話を伺いまして、お忙しいところありがとうございました。

まとめ<PsychicVRLab 野村氏インタビュー>

野村さんのお話を通じて、XRの現実的な次のステージとしてのリアルメタバースに本気で向かっていかれている姿勢を感じることができました。いきなり没入型のメタバース空間に取り組むのではなく、まずはリアルとバーチャルの掛け合わせによって人々に触れてもらう、そうすることで文化的障壁を取り除くというお話は目から鱗でした。

ぜひこの機会に、リアルメタバースの自社ビジネスへの活用についてご検討されてみてはいかがでしょうか。

今後も業界の注目企業/ビジネスパーソンを取材し、メタバースのビジネス活用の最前線に迫っていきますので、どうぞお楽しみに。

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このナレッジの著者

メタバース総研 代表取締役社長

今泉 響介

株式会社メタバース総研(現・CREX)代表取締役社長。
慶應義塾大学経済学部卒業。学生起業した事業を売却後、日本企業の海外展開/マーケティングを支援する株式会社Rec Loc を創業・社長就任を経て、現職に。メタバースのビジネス活用に特化した国内最大級の読者数を誇るメディア「メタバース総研」の運営やメタバースに関するコンサルティング及び開発サービスの提供を行っている。著書に『はじめてのメタバースビジネス活用図鑑』(中央経済社)

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