ARの医療への活用事例5選|5つのメリットや成功のカギも紹介
ポケモンGOやsnowなどのARアプリの普及やAppleによる初のXRデバイスVision Pro発表など、近年ARへの注目はより一層高まっています。
近年では、手術用ロボットや遠隔医療のサポートなどにARが活用されており、アステラス製薬やNECソリューションイノベータなどの大手企業も参入しています。
そこで今回は、医療分野でのARの活用事例について、活用のメリットや成功のポイントなどとともにわかりやすくご紹介します。
本記事は、以下のような方におすすめの記事となっています。
- 医療分野でのAR活用を検討している
- 医療分野でのARの活用事例を押さえておきたい
- AR活用を成功させるためのポイントを押さえておきたい
本記事を読めば、医療分野でのAR活用に関する最新情報を効率よくキャッチアップできると思いますので、ぜひ最後までご一読ください。
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目次
そもそもARとは?
ARとはAugumeted Realityの略称で、拡張現実とも呼ばれます。リアルの世界にデジタルの情報/コンテンツを視覚的に重ね合わせることで、リアルの世界を拡張する技術のことを指します。ARには、ゴーグルを装着せずに、スマートフォンやタブレットの画面にデジタルの情報/コンテンツを表示させるものも含みます。
ARを活用することで、「Pokemon Go」のように、リアルの街にポケモンが存在するかのようなゲームを楽しんだり、「GoogleMap」のARナビのように、リアルの街に道順を示す矢印などの情報が表示され、スムーズに目的地にたどり着くことができたりと、私たちの暮らしをより豊かに・便利にすることができます。
医療業界でARを活用する5つのメリット
病院や医療業界の企業がARを活用する代表的なメリットとして、次の5つがあげられます。
- ①診察への活用によるコミュニケーションの質の改善
- ②診察への活用による遠隔医療の実現
- ③手術現場への活用による精度と安全性の向上
- ④研修への活用による医療スキルの習得と向上
- ⑤医療機器製品開発への活用によるプロセスの効率化
それぞれについて、わかりやすく解説します。
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①診察への活用によるコミュニケーションの質の改善
AR技術を利用して、デジタル上の人体モデルや患者本人の体にレントゲンやMRIなどの医療データを投影することによって患者とのコミュニケーションの質の向上を見込むことができます。特に、膝や腰といった構造が複雑な部位に関するコミュニケーションの際には特に有効です。
②診察への活用による遠隔医療の実現
ARを診察へ活用することにより、遠隔医療の実現に貢献する可能性があります。看護師が医師の代わりに患者を訪問して撮影したデータを遠隔地から医師が確認し、医師がARを活用したツールで看護師へ指示を出すことによって医師なしで診療、治療を行う取り組みが検討されています。
特に、離島や限界集落などの医師が常駐しづらい地域では、遠隔医療の実現が医療環境の充実に貢献する可能性があり、遠隔医療へのAR活用が注目されています。
③手術現場への活用による精度と安全性の向上
手術現場へARを活用することにより、手術の精度や安全性の向上を見込めます。手術前に検査したデータを手術中の患者の患部の画像に投影して、切除するべき病理部位を可視化したり、肉眼では確認することのできない患部のイメージを手術中に確認するといった活用方法が考えられます。
④研修への活用による医療スキルの習得と向上
臨床医療のデータを研修に活用することにより、医師の教育を効率化し、医師全体の医療スキルの習得と向上が見込めます。2Dの画像や映像に加えて、検査のデータにAR技術を活用することにより、病理部位を色付きで示したり、実際の手術のシミュレーションで病変した臓器を再現したりと、よりリアルで学習効果の高い研修を行うことができます。
⑤医療機器製品開発への活用によるプロセスの効率化
ARを医療機器製品開発に活用することにより、開発プロセスを効率化することができます。特に、製品の設計段階でのシミュレーションに活用したり、リモート環境での製品開発などに活用することが可能です。
医療業界でのARの活用事例5選
医療業界でのARの代表的な活用事例として、以下の5つが挙げられます。
- ①Feca:ARを活用して肉眼では見えない患部の状態を可視化
- ②NECソリューションイノベータ:電子聴診器とスマートグラスで遠隔医療の質向上
- ③Holoeyes MD:CT・MRIデータをARを活用して人体モデルに投影
- ④メディカロイド:AR・MRを活用した手術支援ロボの操作
- ⑤アステラス製薬:バーチャルAR・MRを活用した医療従事者への講演会
それぞれの事例についてわかりやすく解説します。
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①Feca:ARを活用して肉眼では見えない患部の状態を可視化
Feca社は、ARを活用して脳血管手術中に脳の血管にわかりやすく色をつけてリアルタイム投影できる「GLOW800 拡張現実蛍光システム」を開発しました。
従来の脳血管手術では、血管の位置を確認しながら手術を行うために、通常の視野と白/黒の近赤外線ビデオを切り替えるために手術を中断する必要があります。そのため、手術の長時間化や手術部位のの深奥部の視認性が悪いという課題がありました。
GLOW800 ARは、脳血管手術の各工程を効率化し、手術中の作業効率向上だけでなく、手術記録の録画も従来より容易に行うことができるため、手術のレビューや教育目的にも活用できます。
②NECソリューションイノベータ:電子聴診器とスマートグラスで遠隔医療の質向上
NECソリューションイノベータは、電子聴診器とスマートグラスを用いた遠隔診療サービスを開発しています。このサービスは、患者宅に出向いた看護師を介して、遠隔にいる医師が指示したり心音を聞きながら診療することを可能にするサービスです。
医師は病院に居ながらにして、スマートグラスを装着した現場の看護師と視野や器具を共有して診察を行うことが可能です。医師がその場にいなければ医療行為が行えないという遠隔診療に関する法整備の問題がクリアされれば、過疎化が進む農村部や島嶼部への医療サービスの提供という社会課題の解決に向け大きく前進する可能性があるといえるでしょう。
③Kapanu:口腔内を3Dスキャンし、義歯の完成イメージを患者と共有
スイスのKapanu社は、歯科医療向けARソフトウェア「Kapanu Augmented Reality Engine」をリリースしています。
歯科医師は、タブレットやスマートフォンのアプリから治療前の患者の口腔内を3Dスキャンし、患者に装着予定の歯の3DモデルをARで表示させることができます。医師と患者のコミュニケーションが円滑になり、完成イメージを共有した上で治療を行えることで、患者側からの満足度向上、歯科医師側のクレームのリスク低減など双方へのメリットがあると考えられています。
④メディカロイド:AR・MRを活用した手術支援ロボの操作
2020年、川崎重工業とシスメックスの合弁会社であるメディカロイド社が初の国産手術支援ロボットである「hinotori」を実用化しました。同年12月に前立腺がん手術の1例目が行われ、その後も実績を積み上げています。
Hitonoriは4本のロボットアーム、内視鏡カメラ、手術器具を搭載した手術ユニットで構成されており、医師は3D画像を見ながら、内視鏡カメラと手術器具を搭載したアームをコントローラーで遠隔操作します。
手術支援ロボットを活用した手術は患者側、医師側双方に多く存在します。患者側のメリットとしては手術の出血や手術後の少なさ、感染症のリスクの低さなどが挙げられ、医師側のメリットとしては直観的な操作が可能、手術部位を拡大して確認できる、手の震えが伝わらないなどのメリットが挙げられます。
⑤アステラス製薬:バーチャルAR・MRを活用した医療従事者への講演会
2022年1月にアステラス製薬は、メタバースを活用した先進的な情報提供方法の構築を開始しました。フェーズ1では「仮想空間上での研究会・講演会」を試験的に実施し、フェーズ2では仮想世界と現実世界の融合など、新しいオンラインコミュニケーション手法を検討する予定です。
AR・MRの領域では、コロナ禍で時間や場所に制限のないコミュニケーションへの移行が進むなかで、双方向性・対面でのコミュニケーションの重要性も明らかになり始めています。そこで、メタバースを活用することで、新たな双方向でのコミュニケーションの重要性も明らかになり始めています。
具体的には、試験的に実施する仮想空間上での研究会・交流会では参加者同士の偶発的な情報交換など、コロナ以前にあった現場でのリアルなコミュニケーションの再現を目指しています。
医療分野へのAR活用を成功に導く5つのカギ
医療分野へのAR活用を成功に導くカギとして以下の5つが挙げられます。
- ①最先端の市場動向・ノウハウのキャッチアップ
- ②活用目的の明確化と骨太な戦略策定
- ③ユーザーファーストなUX設計
- ④アジャイルアプローチによるプロジェクトの推進
- ⑤強力な開発・運用体制の構築
それぞれについて分かりやすく紹介していきます。
①最先端の市場動向・ノウハウのキャッチアップ
1つ目のポイントは、最先端の市場動向・ノウハウのキャッチアップです。
デバイスの進化やユーザーの動き、各領域の先進事例をキャッチアップし、自社が取り組むべき活用方法や成果に繋がる活用のポイントを抑えた上で活用に着手しましょう。
AR活用には取り組むのに一定の予算や工数が必要となるため、自社にとって重要な最新動向や活用のノウハウを抑えておくことが、成功確度の高い戦略・企画立案の大前提となります。
②活用目的の明確化と骨太な戦略の立案
2つ目のポイントは、ARを活用する目的の明確化と骨太な戦略の策定です。
現在AR活用に取り組む企業には、AR活用の取り組みが単発で終わってしまっている企業が見受けられます。
その結果、活用のPDCAが回らない、AR活用が小粒な施策の1つに留まってしまうなど大きな収益機会の獲得に繋がらないという結果に終わってしまいます。
自社の経営課題を踏まえ、「活用によりどのような経営課題を解決したいのか?」「課題解決の打ち手としてなぜARではないといけないのか?」といった明確な活用目的を整理した上で、中長期で目指す事業の姿や自社の強みの活用の仕方などの実現に向けた戦略を立案しましょう。
③ユーザーファーストな企画・UX設計
3つ目のポイントは、自社のターゲットにとってユーザーファーストなARの企画・UX設計です。
現在、多くの企業がARに参入を進めていますが、そのなかには、企業側の都合のみでサービス・体験が設計されたようなARが多く存在します。それらのARは、ユーザーに利用されず、企業の活用の目的を達成できない結果に終わってしまいます。
そのため、「ARならではの高い体験価値を届けられているか」や「ユーザーの利用にあたっての手間や負担が大きくないか」といった観点を踏まえたUX設計が重要です。
④アジャイルアプローチによるプロジェクトの推進
4つ目のポイントは、アジャイルアプローチによるプロジェクトの推進です。
AR市場は今後大きな成長が予想されているものの、いまだ成長期にあり、様々な業界の企業が中長期的な収益最大化に向け、最適な活用を模索している段階にあります。
そのため、計画と実行のプロセスを短いスパンで回し、仮説立案・実行・検証・施策立案のサイクルを何度も繰り返すことが、プロジェクトを机上の空論で終わらせないために重要です。
⑤強力な開発・運用体制の構築
5つ目のポイントは、強力なAR開発・運用体制の構築です。
高いユーザー体験と事業性を両立するARの開発とマーケティングを含めた運用を実施しましょう。
AR開発・運用には幅広い領域の知見や技術スタックが求められるため、外部のベンダーなどを活用し、不足するケイパビリティやリソースを補完することも有効です。
企業がARを活用するための4ステップ
企業がARを活用するためのステップとして、大きく以下の4つのフェーズが挙げられます。
- Step1:市場動向・知見のキャッチアップ
- Step2:戦略/企画の立案
- Step3:事業計画の策定
- Step4:開発・運用
それぞれのフェーズについて分かりやすく紹介していきます。
Step1:市場動向・知見のキャッチアップ
1つ目のStepとして取り組むべきは、最先端の市場動向・知見のキャッチアップです。MetaやApple、Microsoftなどのビックテックやユーザーの動向・先行活用事例など、日々変化する市場動向やナレッジへのキャッチアップが必要です。
このフェーズが、成果に繋がる骨太な戦略/企画策定の基盤となります。
Step2:戦略/企画の立案
2つ目のStepはAR活用の戦略/企画です。活用目的を踏まえ、中長期で目指す事業の姿や自社の強みの活用の仕方、実現に向けた企画を立案しましょう。
ユーザーバリューと自社の事業性の両方を満たす、質の高い戦略/企画の立案が、成果につながるAR活用の実現に向け最も重要なポイントとなります。
Step3:事業計画の策定
3つ目のStepは事業計画の策定です。事業に期待する成果や開発・運用のアプローチやタイムライン、必要な投資額などを検討しましょう。
AR開発・運用といっても、プロジェクト毎に求められるケイパビリティは様々であるため、自社にマッチするツール・ベンダーの選定が非常に重要です。
Step4:開発・運用
4つ目のStepが開発・運用です。AR開発・運用には幅広い領域の知見や技術スタックが求められるため、外部のベンダーなどを有効活用し、不足するケイパビリティやリソースを補完しつつ、ユーザーに届けたい体験を実現するARの開発とマーケティングを含めた運用を実施しましょう。
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