物流DXとは?業界特有の課題への5つの対策や成功事例7選も紹介
物流DXとは、機械化やデジタル化を通じて、物流のこれまでのあり方を変革することを指します。
物流業界におけるDXの取り組み例として、ドローンによる配送、ロボットによる荷物運搬、配送ルートの最適化などが挙げられます。
本記事では、DX推進を検討している物流業界の企業の方に向けて、物流業界のDX取り組み例、メリット、企業の事例、進め方などをわかりやすく解説していきます。
またDX総研では、DXを検討・推進する上で必ず押さえておきたい、DX成功事例50選の取り組みや成果をまとめたレポートを無料で配布しています。ご興味のある方は、以下リンクからダウンロードしてご活用ください。
目次
- 物流業界が抱える3つの課題とは?
- 物流業界の課題を解決する物流DXとは?
- 物流DXにおける5つの取り組み
- 物流DXを推進する4つのメリット
- 企業による物流DXの成功事例7選
- ①【日本通運】AI-OCR(光学文字認識)や自動フォークリフトで業務効率化を実現
- ②【佐川グローバルロジスティクス】無線通信自動認識システムや仕分けシステムで倉庫内作業を効率化
- ③【SGホールディングス】AI搭載の荷積みロボットやAI-OCRでトラックドライバーの労働負担を軽減
- ④【ヤマトホールディングス】宅急便のネットワーク全体を変革する「ネットワーク・オペレーション構造改革」を推進
- ⑤【ロジスティード】EC物流向けシェアリング自動倉庫「SMART WAREHOUSE」を提供
- ⑥【KDDI×長野県伊那市】ドローンデリバリーサービス構築事業「ゆうあいマーケット」を運用開始
- ⑦【日本郵船】運航データの収集にAIを活用することで、船舶のIoT化を推進
- 物流DXを進めるための6つのステップ
- 物流DXを成功させるための5つのポイント
物流業界が抱える3つの課題とは?
物流業界が抱える課題として、以下の3つが挙げられます。
- ①ECの流行による配送需要の増大化
- ②慢性的なドライバー不足
- ③長時間労働による事故の発生
それぞれについてわかりやすく解説していきます。
①ECの流行による配送需要の増大化
コロナウィルスをきっかけに、Eコマース(EC)が、全年代で普及しています。経済産業省が2023年8月に発表した「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」によると、2022年の国内のBtoCのEC市場規模は22兆7,449億円となり、前年比で2兆499億円も増加しています。
これに伴い、商品の配達のための物流需要が増加しており、特に物流の小口化・多頻度化が急速に進行しています。国土交通省によると、貨物1件あたりの貨物量は、2000年度は2.43トンだったのに対し、2021年度は0.83トンと大幅に減少しています。一方で物流件数は、2000年度の13,656件から2021年度の25,080件とほぼ倍増しています。
また、再配達も需給バランスを悪化させる要因となっています。国土交通省の調査によると、2023年10月時点での宅配便の再配達率は11.1%となっています。このような事態を受けて、国土交通省は、再配達の件数を減らすため、宅配ボックスや置き配などを推進しており、2024年度中に6%にまで減らすことを目指しています。
物流需要の急速な増加の問題に対応するためには、デジタル技術を活用した物流業務の大幅な自動化や、トラックの配送ルートの最適化など、様々な工夫が必要となります。
※出典: 国土交通省「物流を取り巻く現状と課題」
②慢性的なドライバー不足
物流を担うドライバー不足の問題も深刻化しています。特に、2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制が適用されることで、輸送能力が不足することが懸念されています(いわゆる物流の2024年問題)。
政府が実施した「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、2024年問題に対して何も対策をしなかった場合、営業用トラックの輸送能力が、2024年には14.2%、2030年には34.1%不足する可能性があると試算しています。
輸送能力の不足の問題を解消するには、荷主、運送業者、一般消費者のそれぞれが、輸送の効率化に向けた努力を行う必要があります。各当事者が行える具体的な取り組みとしては以下のようなものが挙げられます。
- ①荷主:高速道路料金を負担するなどして高速道路の利用を促進する
- ②運送業者:予約システムの導入による荷待ち時間の削減やDXによる業務効率化を試みる
- ③消費者:まとめ買いによる注文回数の減少や配達時間の指定による再配達の防止に取り組む
③長時間労働による事故の発生
国土交通省が2022年に公開した「自動車運送事業用自動車事故統計年報」によると、2022年のトラックによる重大事故の発生件数は1,774件で、前年より65件増加しています。また、トラックでの死者数・重症者数は、バスやタクシーと比べても最多となっています。
トラックにおける事故が他の車両と比べて多いことの理由の一つとして、ドライバーの長時間労働による疲労や居眠り運転が挙げられます。
事故のリスクを減らすためにも、DXによる物流業務の効率化、労働時間の削減は急務となっています。
物流業界の課題を解決する物流DXとは?
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用し、業務やサービス、ビジネスモデルを変革し、企業の競争優位性を高める取り組みのことです。
物流におけるDXとは、機械化やデジタル化を通じて、物流のこれまでのあり方を変革することを指します。
国土交通省も、「総合物流政策大綱」において、物流DXの促進を掲げています。具体的な取組みとして、手続きの電子化やICT活用による物流の効率化、ロボット等の導入による労働者不足の解消、物流・商流データ基盤の構築、DX人材の育成などを挙げています。
日本の物流企業の多くも、独自のDXの取り組みを推進しています。例えば、日本通運は、自動で動くフォークリフトを倉庫に導入して出荷準備作業や荷受け作業を自動化し、1人当たりの残業時間を約1~2時間削減することに成功しています。
また、AIやドローンなどの最新技術を活用した取り組みも注目されています。例として、ドローンを活用した山間地域住民の買い物支援や、AIのデータ分析に基づく配送網の最適化などが挙げられます。
労働者不足や長時間労働などの深刻な問題を抱える物流業界において、DXは、現状を打開する有望な手段となるでしょう。
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物流DXにおける5つの取り組み
物流DXにおける企業の取り組みとして、以下の5つの例が挙げられます。
- ①ドローンによる配送
- ②ロボットによる荷物の運搬
- ③配送ルートの最適化
- ④顧客問い合わせ対応の自動化
- ⑤各種手続きの電子化
それぞれについてわかりやすく解説していきます。
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①ドローンによる配送
ドローンは、物流業界において最も注目されている技術の一つです。ドローンで荷物を運ぶことのメリットとして、無人で配達できるため人件費がかからないこと、トラック等での輸送よりも迅速に配達できること、環境への負荷が小さいことなどが挙げられます。
例えば、Amazonは、Prime Airと呼ばれるドローンによる配達サービスを、当局の許可を得た一部の地域で開始しています。2030年までに年間5億個の荷物をドローンで配達することを目標としているとのことです。
日本ではドローンに対する規制が比較的厳しいため、なかなか導入が進んでいませんでしたが、近年大手企業を中心にドローンの物流への活用を目指す実証実験が行われています。
例えば、日本郵便は、2024年3月、人手不足に悩まされている山間地域においてドローンによる荷物配達の実証実験を行いました。2024年度以降の実用化を目指しているとのことです。
②ロボットによる荷物の運搬
物流倉庫などでのロボットの活用は、多くの物流企業において進められています。ピッキング・仕分け作業や貨物の運搬などをロボットが代替することで、作業員の負担軽減や作業の効率化、安全性の向上などに役立っています。
Amazonが物流センターでの製品輸送にロボットを活用しているのは有名な話です。日本でも、物流倉庫にロボットを導入する動きが広がっています。
例えば日本通運は、2020年から、自社の物流センターに自動ピッキングロボットを導入し、倉庫業務の省力化、生産性向上を実現しています。
③配送ルートの最適化
トラック等による荷物の配達において、配送ルートが最短距離になるように最適化することは、コスト削減や環境への負荷の軽減といった観点から非常に重要です。
近年、AIを活用して配送ルートを最適化する取り組みが一部の企業で行われています。例えばファミリーマートは全国の物流センターにおける配送網の作成にAIを活用し、ルートを最適化しています。自社開発したAIでテストした結果、ルートの数が1割減少し、商品をより早く効率的に全国の店舗に届けることに成功しています。
また、ヤマト運輸は、過去の配送履歴等からAIが顧客ごとの配送業務量を予測し、自動で最適な配送計画を策定するシステムを導入しました。これにより、車両の走行距離を短縮し、ドライバーの負担を軽減することが期待されています。
④顧客問い合わせ対応の自動化
再配達の依頼や配達日時の確認など、物流企業には配達に関する顧客からの問い合わせが数多く寄せられます。近年、AIを搭載したチャットボットを導入し、顧客からの問い合わせ対応を自動化する活用方法が注目されています。
特に、生成AIを搭載したチャットボットは、人間のように自然な会話が可能であり、様々な質問に人間のサポートなしで応答することができます。これにより、人件費等のコスト削減、従業員の負担軽減など多くのメリットが得られます。
また、チャットボットは24時間365日応答できるため、顧客に対するサービスの質の向上にもつながります。
⑤各種手続きの電子化
DXにより、紙のやり取りを電子化することで、業務効率化、利便性向上、コスト削減などを実現することができます。
最近では、OCR(光学文字認識)という技術を用いて伝票を自動で読み取って入力するなどの取り組みも行われており、手入力と比較して、配送業務を大幅に効率化することができます。
例えば佐川急便は、AIを搭載したOCRによって配送伝票を読み取り、自動で入力する取り組みを実施しています。AIが手書きの文字や擦れた文字も正しく認識し、認識精度は99%超えを達成しています。これにより、月間8,400時間相当の工数削減に成功しました。
物流DXを推進する4つのメリット
物流DXを推進するメリットとして、以下の4つが挙げられます。
- ①人手不足の解消
- ②荷物の運搬中の事故の防止
- ③人件費・ガソリン代等のコスト削減
- ④配達スピードの向上
それぞれについてわかりやすく解説していきます。
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①人手不足の解消
DXの各種取り組みを通じた業務の自動化・効率化により、ドライバーや倉庫での作業員などの人手不足を解消することができます。
効率化のための取り組みの例として、物流倉庫にロボットを導入して荷物の運搬やピッキングを自動化したり、AIにより配送ルートを最適化して走行距離を短縮することなどが挙げられます。
労働市場全体が縮小している中、人手不足に対応するためには、「どうやって多くの人を採用するか」ではなく、「少ない人数でも業務が回るようにするにはどうしたらよいか」という視点で対策を検討するスタンスが重要となります。
②荷物の運搬中の事故の防止
倉庫での荷物の運搬をロボットで自動化することで、運搬中の事故を防止することができます。
中央労働災害防止協会が発表している「労働災害分析データ 倉庫業」によると、倉庫業における2023年の災害発生件数は863件であり、前年よりも40件ほど増加しています。
物流倉庫でよくある事故として、フォークリフトとの衝突や墜落・転落・転倒などが挙げられます。
倉庫での作業の一部をロボットに代替させることで、このような事故が発生するリスクを抑えることができます。また、作業員の心身の負担も軽減され、腰痛などの健康面での問題が発生するリスクも軽減されるでしょう。
③人件費・ガソリン代等のコスト削減
荷物の運搬等の作業をロボットが自動化することで、必要な作業員の数が減り、人件費を削減することができるようになります。
また、AIによるデータ分析に基づき、トラックの配送ルートを最適化することで、走行距離が短くなり、ガソリン代等のコストを節約することが可能となります。
④配達スピードの向上
DXにより物流を改革することで、顧客への製品配達スピードが格段に向上します。配達スピード向上につながるDXの取り組み例として、以下が挙げられます。
- 配送ルート最適化による走行距離の短縮
- 伝票記録の自動入力による配達事務の効率化
- ロボットによる荷物運搬やピッキング等の自動化・効率化
これらの取り組みを通じて、顧客に最短距離かつ最速で製品等を届けることができるようになり、顧客満足度の向上につながります。
企業による物流DXの成功事例7選
日本企業による物流DXの成功事例として、以下の7事例が挙げられます。
- ①【日本通運】AI-OCR(光学文字認識)や自動フォークリフトで業務効率化を実現
- ②【佐川グローバルロジスティクス】無線通信自動認識システムや仕分けシステムで倉庫内作業を効率化
- ③【SGホールディングス】AI搭載の荷積みロボットやAI-OCRでトラックドライバーの労働負担を軽減
- ④【ヤマトホールディングス】宅急便のネットワーク全体を変革する「ネットワーク・オペレーション構造改革」を推進
- ⑤【ロジスティード】EC物流向けシェアリング自動倉庫「SMART WAREHOUSE」を提供
- ⑥【KDDI×長野県伊那市】ドローンデリバリーサービス構築事業「ゆうあいマーケット」を運用開始
- ⑦【日本郵船】運航データの収集にAIを活用することで、船舶のIoT化を推進
それぞれの事例についてわかりやすく解説していきます。
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①【日本通運】AI-OCR(光学文字認識)や自動フォークリフトで業務効率化を実現
物流業界最大手の日本通運は、AIが手書きの文字などを読み取ってデータ化することができるAI-OCR(光学文字認識)や自動フォークリフトで業務時間や担当者の負担軽減を実現しています。
【課題・背景】
- 慢性的な人手不足や長時間労働が問題となっている物流業界において、従業員の労働時間を削減する施策の遂行が課題となっていた
【具体的な取り組み】
- AIを用いた光学文字認識技術であるAI-OCRを導入し、ドライバーの運転日報やアルバイト勤務日報の入力業務を自動化
- 物流倉庫に自動フォークリフトを導入し、出荷準備作業や荷受け作業を自動化
【解決した課題・成果】
- 毎月平均450件の帳票を手入力で行っていたが、AI-OCRで入力を自動化したことで、年間6万時間弱の事務作業を削減
- 深夜の搬送作業自動化により、1人当たりの残業時間を約1~2時間/日削減。入出庫作業の自動化による安全性の向上
②【佐川グローバルロジスティクス】無線通信自動認識システムや仕分けシステムで倉庫内作業を効率化
SGホールディングスグループの中でロジスティクス事業を展開する佐川グローバルロジスティクスは、無線通信自動認識システム(RFID)を導入することで入出荷検品作業を効率化したり、仕分けシステム「t-Sort」を導入することで仕分け作業の生産性を向上させています。
【課題・背景】
- 倉庫内作業を効率化し、作業員の負担軽減や生産性向上を図りたい
【具体的な取り組み】
- 商品につけた無線通信自動認識システム「RFID(Radio Frequency Identification)」を認識させて検品を行う
- 仕分けシステム「t-Sort」で従来作業員が移動して行っていた仕分け作業をロボットが代わりに行う
【解決した課題・成果】
- t-SortとRFIDシステムの組み合わせで、作業スキル修得時間は約7割削減を達成するなど、新規就労者の早期戦力化を実現
- 作業生産性の大幅な向上に加え、作業品質も向上。仕分けミスは、ほぼゼロに
③【SGホールディングス】AI搭載の荷積みロボットやAI-OCRでトラックドライバーの労働負担を軽減
佐川急便を中核とした総合物流企業グループであるSGホールディングスは、AI搭載の荷積みロボットやAI-OCRを活用し、業務効率化を実現しています。
【課題・背景】
- 物流業界では労働人口減少による労働力不足や、2030 年の輸送力不足を背景に、トラックドライバーの労働負担の軽減など労働環境の改善が求められていた
【具体的な取り組み】
- トラックの庫内に最適な荷積み作業ができる「AI搭載の荷積みロボット」を開発
- AI-OCRの機能を発展させ、給与支払報告書、コロナワクチン予診票、レセプト帳票などといった独自の帳票の読み取りも可能なソリューションを活用
【解決した課題・成果】
- トラックドライバーや積み込み作業者の業務負担軽減や荷役作業の省人化を実現
- 紙帳票のデータ化業務における人手不足やコスト増加に課題を抱える顧客に貢献できるサービスを提供
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④【ヤマトホールディングス】宅急便のネットワーク全体を変革する「ネットワーク・オペレーション構造改革」を推進
ヤマトホールディングスは、「宅急便」のネットワーク全体を変革する「ネットワーク・オペレーション構造改革」に取り組んでいます。
【課題・背景】
- 複数の営業拠点間の連携を強化し、宅配オペレーションを全体最適化することで、費用対効果を向上させたい
【具体的な取り組み】
- 業務量に応じてリソースを最適配置する仕組みの活用により、宅急便の営業所を集約・大型化
- 営業所の集約・大型化と連動し、日々の業務量変動に合わせてオペレーションを組み換える仕組みを導入
- 在庫管理システムなどを組み合わせ、大口から複数小口まで、必要な商品を必要な量だけ必要な時に適切な輸送モードで納品できるルート集配機能を確立
【解決した課題・成果】
- 拠点ごとの輸送・作業・事務・管理コストの適正化を達成
- 配達効率向上によるオペレーティングコストの削減を実現
⑤【ロジスティード】EC物流向けシェアリング自動倉庫「SMART WAREHOUSE」を提供
物流・流通・サービス分野に特化したソフトウェア会社のロジスティードは、EC物流向けシェアリング自動倉庫「SMART WAREHOUSE」を提供しています。
【課題・背景】
- 倉庫の許容量が不足している、出荷が追いつかないなどEC事業ならではの課題を抱えていた
- 『EC事業を始めたけれど、物流ノウハウがない』という声が多く届いていた
【具体的な取り組み】
- EC物流向けシェアリング自動倉庫「SMARTWAREHOUSE」を提供
- ダンボールの組み立てから、商品を入れてダンボールに封をし、伝票を貼り付けるまでの作業を自動化
- ほぼ自動化されたシステムに乗せるだけで配送まで完了するため、ユーザーとなる企業は知識やノウハウがなくても簡単に導入が可能
【解決した課題・成果】
- 自動化・標準化されたオペレーションで作業ミスを低減
- 省人化率72%の自動化で18,000個/日の発送を実現
⑥【KDDI×長野県伊那市】ドローンデリバリーサービス構築事業「ゆうあいマーケット」を運用開始
伊那市は「空飛ぶデリバリーサービス構築事業」として2018年からKDDIと実証を重ね構築した「ゆうあいマーケット」を、2020年から本格運用しています。
【課題・背景】
- 物流網が整っていない山間地では、高齢者を中心に買物困難者が増加していた
【具体的な取り組み】
- KDDIと共同で、ケーブルテレビによる注文とドローンによる配送を組み合わせた買い物サービス「ゆうあいマーケット」を運用開始
- 日用品などを最大5kgまで積載可能なドローンを活用し、約10km離れた地点まで配送を実施
【解決した課題・成果】
- 午前11時までに注文された商品はその日の夕方までに届くなど、迅速な配送の実現により、買物困難者を救済
- ドローンは可能な限り河川上空を飛行。河川のカメラ画像を国土交通省に提供することで、河川の管理にも貢献
⑦【日本郵船】運航データの収集にAIを活用することで、船舶のIoT化を推進
日本郵船は、船舶のIoT化を推進し、海難事故の撲滅やCO2排出量削減への取り組みを進めています。
【課題・背景】
- SDGsやESGが重要視される中、環境に配慮した船舶の航行を実現するためのデジタル技術の活用が大きな目標となっていた
【具体的な取り組み】
- 船舶に装備するセンサーの種類や数を拡充し、運航データの収集にAIを活用することで、船舶のIoT化を推進
- 海域データを活用し、実際の船を再現したシミュレーションを行うことで、高効率を追求したプロペラを設計
【解決した課題・成果】
- 船舶のIoT化により、海難事故リスクの低減、燃費効率の向上、温室効果ガス排出量の削減、乗組員の点検業務の負担軽減を実現
- 高効率プロペラにより、燃費が向上し、CO2排出量を約2%削減
物流DXを進めるための6つのステップ
物流DXの進め方は大きく6つのステップに分けられます。
それぞれのステップについてわかりやすく解説していきます。
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ステップ1:DXの目的・ビジョンを明確化する
DX推進の最初のステップとして、DXの目的・ビジョンを明確化しましょう。
「DX推進後の理想の自社の姿」を明確に設定することで、その後の取り組み内容や優先度、進め方などを決定する軸とすることができ、ブレることなくプロジェクトを推進できます。
本ステップの検討には経済産業省の「DXレポート2.1」のフレームワークが役に立ちます。
自社の業務、製品/サービス、ビジネスモデルのそれぞれが、どの程度までデジタル化された状態を理想とするかを、市場環境や自社の特性を踏まえ、検討しましょう。
例えば、業務のデジタル化すら進んでいない企業であれば、3年後までにまずは業務のデジタライゼーションを目指す。一方で、業務のデジタル化が進んでいる企業であれば、3年後までに製品/サービスやビジネスモデルのデジタルトランスフォーメーションを目指す。といったビジョンの設定が考えられます。
ステップ2:自社の現状と課題を把握する
続いて、自社が現状どの程度DXを推進できているのか、ビジョンの実現に向け何が課題なのかを把握しましょう。
本ステップの検討には、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「DX推進指標」を活用することで、企業文化、推進体制、人材育成など、多角的な観点から評価を行うことができます。
それぞれの観点における自社の成熟度のレベルを把握することで、特にDX推進が遅れているポイントを明確にすることができ、その後の戦略や計画の策定に活かすことが可能です。
ステップ3:DXに関する戦略と計画を策定する
前ステップで策定したビジョンと自社の現状・課題に基づき、DXに関する戦略・計画を策定しましょう。
検討すべき項目は上記画像のように多岐に渡りますが、特に重要なのは、「戦略=デジタル化の優先度付け」です。
デジタル化の対象や取り組み内容の候補は極めて幅広いため、バラバラと取り組みを進めてしまうことでリソースが分散し、思うような成果が上がらないというケースは少なくありません。
そのため、取り組みの候補を幅出し・整理した上で、DXを推進しやすくインパクトも期待できる取り組みから着手し、その後難易度が高くよりインパクトの期待できる取り組みにシフトしていくといった進め方が有効となります。
例えば、受発注のやりとりに関する膨大な作業の効率化を重点課題とした企業であれば、まずは資料のペーパーレス化や判子の電子印化を進めた上で、その後一連の受発注プロセスをデジタル活用により自動化するといった進め方が考えられます。
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ステップ4:DX推進チームを構築する
DXを推進するには、ビジョンや戦略を社員に周知し、現場からの課題を吸い上げながら、各部門と連携・調整し、実行支援も行う、DX推進専門のチームが必要になります。
そのため、DX推進チームのメンバーには特に、デジタルへの知見、コミュニケーション能力、業務の知見などのスキルが求められます。
また、DX人材の具体的な職種の例は以下の通りです。
- プロジェクトマネージャー:DXやデジタルビジネス構築を主導するリーダー
- テックリード:システム設計や要件定義を担当し、開発を主導
- UI/UXデザイナー:DXやデジタルビジネスのユーザー向けのデザインを担当
- エンジニア:デジタルシステムの実装・インフラ構築を担当
- データサイエンティスト:事業・業務に精通しデータの収集・分析を担当
これらのDX人材の確保には、外部ベンダー等の人材を活用する方法と、社員に対するDX人材育成を実施する方法があります。
DX推進のスケジュールや、社員のDXスキルの有無、既存業務を含めたリソースの有無などを考慮し、自社に最適な方法を選択しましょう。
ステップ5:デジタル化により業務効率を向上させる
これまでに策定したビジョン・戦略・計画に基づき、実際に業務効率化に向けたデジタル化を推進していきましょう。
ここで、いきなり全社単位や部門横断の大規模なDXに着手してしまうと、デジタル化の難易度が高く、成果が出るまで長期間を要し、コストも膨大になってしまいます。
そこで、デジタイゼーション(書類で管理していたデータをクラウド上で一元管理する等)やデジタライゼーション(RPAの導入によりデスクワークの一部を自動化する等)など着実に成果の上がる取り組みを、特定の事業部や部門単位から進めるのがおすすめです。
前のステップまでは比較的トップダウン的な取り組みですが、本ステップからはいかに現場の各社員と深く対話し、小さな成功を積み重ねるというボトムアップ的な取り組みが重要です。
これにより、多くの人材から共感と信頼を勝ち取り、DX推進に巻き込んでいくことで、より大規模なDXの推進が可能になります。
ステップ6:PDCAを回し、ビジネスモデル変革まで繋げる
業務のデジタル化を進めることで、企業は今まで見えていなかった業務や顧客に関する様々なデータを収集・蓄積・可視化できるようになります。
これらのデータを分析し、新たな業務の課題やビジネスチャンスを発見し、取り組みを改善するというPDCAサイクルを、数ヶ月単位で何度も回すことで、大きな成果を上げることが可能です。
さらに、PDCAサイクルを回し続けることで、自社独自の詳細な顧客データやより効率的なオペレーション、先端技術活用のノウハウなどの強みが蓄積されていきます。この強み蓄積こそが、他社には真似できない、ユニークな新サービスやビジネスモデルの創出の源泉となります。
物流DXを成功させるための5つのポイント
物流DXを成功させるためのポイントとして、以下の5つが挙げられます。
- ①リーダーのコミットメントにより社内を巻き込む
- ②自社ならではのDX戦略を策定する
- ③十分なDX人材を確保する
- ④スモールスタートクイックウィンを実現する
- ⑤ゴールへの最短かつ低コストなアプローチを設計する
それぞれのポイントについて分かりやすく紹介していきます。
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①リーダーのコミットメントにより社内を巻き込む
DXは、個別業務のデジタル化だけでなく、全社規模の業務やビジネスモデル、組織文化の変革など、会社のコアとなる部分を大きく変えていく取り組みです。
そのため、経営陣や事業部のリーダーが起点となり、DXのビジョン・方針を明確に示し、社内全体を強力に動かしていく必要があります。
具体的には、「どのような中長期的なDXのビジョンを描くのか」、「業務や顧客体験、ビジネスモデルをどのように変えていくのか」、そのために「どの程度人材や予算を割り当てていくのか」などに対して、大きな権限を持って意思決定をしていくことが求められます。
一方で、経営陣やリーダー陣がDXに対する危機意識が低い場合などは、DX推進部門や経営企画部門などが主導し、リーダー陣を含め、DXに関する社内向けの勉強会/ワークショップを実施することも有効です。
②自社ならではのDX戦略を策定する
あらゆる人・モノ・コトがインターネットと繋がる現代で、人々の生活や業務、ビジネスの主戦場は、リアルの世界からデジタルの世界に加速度的にシフトし続けています。
その変化を踏まえ、いかにデジタルを活用し競争優位性を築いていくかは、全ての企業の経営戦略を考える上で必須のテーマとなっており、DX戦略を考えること=経営戦略を考えること、と言っても過言ではありません。
そのため、DX戦略を策定する際は、特定の事業部/部門×個別の業務×デジタル化という範囲で考えたり、同業他社が進めている取り組みをベースにして考えるといった、個別具体的なアプローチではなく、より中長期や全体のアプローチから、全社のビジョンや経営戦略、テクノロジートレンドや業界への影響などと連動させて考える必要があります。
③十分なDX人材を確保する
DXの成功に向けては、テクノロジーと経営戦略に対して深い知見を持つプロジェクトマネージャーや、専門的なスキルを有するエンジニア、デザイナーなどのDX人材を十分に確保することが必須となります。
本来であれば、既にDX人材が社内にいればよいのですが、ほとんどの日本企業で人材が不足しているという現状があります。
また、市場全体として人手不足で、DX人材の争奪戦となっており、採用も思うようには進められないというケースも多く見られます。
そのため、足元のDX推進にむけては、経営課題とデジタルの両方に精通した外部のエキスパートを活用しながら、中長期目線では実践や研修を通じた人材育成をしていくといったアプローチが有効です。
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④スモールスタートクイックウィンを実現する
DXがなかなか進まない理由として、業務や組織を大胆に変えていくことが必要な一方で、全社規模の大きな成果が上がるまでには5年程度を有するという点があります。
そのため、取り組みの方向性が正しくても、短期間では成果が見えにくいことから、部門間の軋轢や現場からの反発が生まれ、変革のスピードが落ちてしまうケースが少なくありません。
そこで、全社単位でのインパクトは小さくとも、比較的短期で成果が出る取り組みを進め、その成果を社内外に発信し巻き込んでいくことは非常に有効です。
取り組みの例としては、アナログデータのデジタル化や各種データの一元管理化、業務自動化ツールの導入などが挙げられます。
これらの取り組みにより小さな成功を積み重ね、他部門のリーダー陣や現場の社員のマインドが徐々に変わっていくことで、連鎖的に大規模なDXを推進しやすい状況を実現できます。
⑤ゴールへの最短かつ低コストなアプローチを設計する
業務の現状や課題を踏まえて設定したゴールに向けて、最適かつ低コストなアプローチ設計をすることは、DXの投資対効果を飛躍的に高めます。
そもそものDXの目的は、業務を効率化することや顧客により良い製品/サービスを届けることです。
一方で、「DXプロジェクトをやるぞ!」となると、本来目的であるはずのデジタル化自体が目的になってしまい、競合が取り組んでいるからといった理由で、自社にマッチしない大掛かりなデジタル化をすすめてしまうケースが少なくありません。
もし大規模なシステム開発をせずに効率化を実現できるのならそれがベストであり、そもそも業務は必要か、効率化のインパクトは大きいか、SaaSの導入で解決できないか、アジャイルな進め方で小規模なPoCで仮説を検証する余地はないか、などより幅広い視点で検討をするようにしましょう。
DXの実行フェーズになっても、デジタルへの知見はもちろんですが、全社単位での経営の視点や戦略思考が必要になります。
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