行政・自治体DXとは?5つの課題・進め方・成功事例8選も紹介
行政・自治体におけるDXとは、行政機関や自治体がデジタル技術を活用することで、業務プロセスの効率化や改革を実現し、住民の利便性向上や行政サービスの質の向上を目指す取り組みのことを指します。
日本の多くの行政機関・自治体では、いまだにアナログ文化が根強く、官僚的な意思決定構造やデジタル人材の不足などともあいまって、なかなかDXが進んでいません。
しかし、正しい戦略とやり方でDXを推進すれば、どんな組織でも、業務効率化や住民サービスの質の向上などの成果を上げることができます。
本記事では、DXの推進を検討している行政機関・自治体の担当者の方に向けて、自治体におけるDXが進まない理由、自治体がDXを推進するメリット、成功事例、具体的な進め方などを分かりやすく解説していきます。
またDX総研では、DXを検討・推進する上で必ず押さえておきたい、DX成功事例50選の取り組みや成果をまとめたレポートを無料で配布しています。ご興味のある方は、以下リンクからダウンロードしてご活用ください。
目次
行政・自治体におけるDXとは?
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用し、業務やサービス、ビジネスモデルを変革し、企業や組織の競争優位性を高める取り組みのことです。
行政・自治体におけるDXとは、行政機関や自治体がデジタル技術を活用することで、業務プロセスの効率化や改革を実現し、住民の利便性向上や行政サービスの質の向上を目指す取り組みのことを指します。
総務省は、自治体におけるDXの目的・意義として、「自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させる」ことと、「デジタル技術やAI等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていく」ことを挙げています。
このように、行政・自治体という文脈の中で語られるDXは、単なる一組織の業務改革にとどまらず、デジタル社会の実現に向けた全国的な取り組みとして位置付けられています。
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行政・自治体におけるDXが進まない5つの理由
行政・自治体におけるDXが進まない理由として、以下の5つが挙げられます。
- ①アナログ文化の浸透
- ②デジタル人材の不足
- ③DX推進にかかる予算の不足
- ④官僚的構造による意思決定の遅延
- ⑤既存システムのブラックボックス化
それぞれについてわかりやすく紹介していきます。
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①アナログ文化の浸透
多くの企業ではペーパーレス化が進んでいる中、行政・自治体の多くはいまだに紙を利用して、各種申請や届出などが行われています。
その背景として、紙での手続きが長年の慣例として深く根付いてしまっていることや、デジタル化を推進するための人手が足りていないこと、デジタル化のための予算が不足していることなどが挙げられます。
アナログ文化を脱却し、デジタル化によりDXを推進していくためには、組織全体の抜本的な意識改革が必要となります。
②デジタル人材の不足
自治体や企業にかかわらず、DXが進まない理由として最もよく挙げられるのが、DXを推進するためのデジタル人材の不足です。
DX推進のためのデジタル人材とは、単にITツールに詳しいだけでは足りず、プロジェクトを引っ張っていくリーダーシップ・マネジメントスキルや、各部署と連携・協力していくコミュニケーションスキルなど、様々な能力が必要となります。
特に行政・自治体は、このようなデジタル人材が内部にいないことが多いです。DXを推進しようとしても、誰もやり方を理解しておらず、結局進まないという事態に陥っていることが少なくありません。
デジタル人材を確保するためには、職員に向けたDX研修や勉強会を開催してデジタル人材を育成することが必要となります。
③DX推進にかかる予算の不足
DXを推進するためには、ITツールの導入、デジタル人材の育成・採用、ツール/システムのメンテナンスなど様々な場面でコストが発生します。
地方自治体の財源不足は深刻な問題となっており、総務省によれば、令和6年度時点で約1.8兆円の財源不足が生じています。
そんな中、DX推進のために予算を費やすのが難しいという自治体が多いのが現状です。予算不足により、DXを推進しようとしても、なかなか踏み切れないという事態に陥っているのです。
予算不足の問題を解消するには、政府が積極的な財源保障を行うことも重要ですが、ITツールの導入により中長期的には今よりもコストを節約できるという視点を持って予算計画・執行を行うことが不可欠です。
④官僚的構造による意思決定の遅延
多くの行政・自治体が抱えている問題として、組織内部の官僚的な構造により、意思決定のスピードが遅いというものがあります。
何か新しい施策を実施するために色々な上司の了承を得なければならなかったり、意思決定の責任者が不明確で変化を起こす施策決定をする人が誰もいなかったりなど、新しいことを始めることが難しい状態に陥っている自治体も少なくありません。
⑤既存システムのブラックボックス化
ITツールやシステムを導入するためには、既に使っているシステムと上手に統合することが重要となります。
しかし、行政・自治体の中には、既存システムが複雑化・ブラックボックス化しており、誰もその仕組みを理解していないという事態に陥っている場合も少なくありません。
そのため、新たなITツールやアプリケーションを導入しようとしても、既存システムとどのように統合したらよいかわからず、うまく導入できないのです。
このような事態を打開するためには、ITエンジニアを雇ったり、外部のコンサル・開発会社に支援を求めるなど、専門家の力を借りることが必要となります。
総務省の自治体DX推進計画とは
自治体DX推進計画とは、総務省が行政・自治体におけるDX推進のために公開したガイドラインのことです。すべての都道府県・市区町村を対象に、DXを推進するために自治体が取り組むべき事項・内容やDX推進体制を構築する上で重要となるポイントなどをまとめたものです。
自治体DX推進計画は、「デジタル社会の構築に向けた取り組みを全自治体において着実に進めていく」ことを目的に策定されたもので、2021年1月から2026年3月までの期間に自治体が重点的に取り組むべき事項について助言を与えるものになります。
自治体DX推進計画は2020年12月25日に策定され、その後数回改訂されています。2024年8月時点の最新版は、2024年4月24日に公開された第3.0版で、新たにデジタル人材の確保・育成のポイントや全国の自治体のDX推進状況が追加されました。
行政・自治体におけるDX推進の4つのメリット
行政・自治体におけるDX推進のメリットとして、以下の4つが挙げられます。
- ①自治体業務の自動化・効率化
- ②手続きのオンライン化による利便性の向上
- ③自治体サービスの質の向上・住民満足度UP
- ④ペーパーレス化によるコスト削減
それぞれについてわかりやすく紹介していきます。
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①自治体業務の自動化・効率化
DXを推進し、手作業で行っていた書類作成や申請・届出等の各業務のデジタル化を進めることで、業務の自動化・効率化を実現できます。
例えば、書類で管理していたデータをクラウド上で一元管理したり、RPAの導入によりデスクワークの一部を自動化したりといった取り組みが挙げられます。
これらの取り組みにより、作業時間の短縮やヒューマンエラーの防止、作業人員の縮小などの成果が期待できます。
また、個別作業のデジタル化だけでなく、デジタル活用を前提とした、既存の業務プロセス全体の見直し・カイゼンを行うことで、より大きな成果を上げることが可能です。
②手続きのオンライン化による利便性の向上
住民が、住民票・印鑑証明書などの各種行政書類の取得や住所変更の際の届出などを行うためには、市区町村の役所に実際に赴く必要がある場合がほとんどです。
DXを推進し、これらの手続きをオンラインでも実施できるようにすることで、実際に現地の市役所・区役所等に行く必要がなくなり、住民の利便性が大きく向上します。
また、行政・自治体にとっても、手続きのオンライン化により、対面での応対の必要がなくなり、職員の負担軽減や人員コストの削減に繋がります。
総務省は、自治体の行政手続きのオンライン化を推進するために、その進め方や方針を示した自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書を公表し、全ての自治体でオンライン手続きを進めていく方針を明らかにしています。
③自治体サービスの質の向上・住民満足度UP
ITツールを上手に活用することで、単なる業務効率化だけでなく、自治体サービスの質を向上させることができます。
例えば、人間のように会話ができるチャットボットを導入することで、住民からの問い合わせに自動で対応できるようになります。人間と異なり、24時間365日対応できるほか、応対の質も標準化されるため、住民にとっての利便性が高まり、満足度向上に繋がります。
④ペーパーレス化によるコスト削減
DXの推進により、ペーパーレス化を進めることで、紙の購入費用や印刷代などのコストを削減することができます。単なるコスト削減だけでなく、地球環境にやさしい社会的意義のある取り組みとなるでしょう。
ペーパーレス化は、あらゆるDXの取り組みの中でも、最も取り組みやすい施策の一つです。例えば、紙に書かれた文章を読み取ってデータ化できるOCR(光学文字認識)ツールを活用することで、人間が手入力をしなくても紙の文章をデータ化することができます。
行政・自治体におけるDXの成功事例8選
行政・自治体によるDXの成功事例として、以下の8事例が挙げられます。
- ①【北海道北見市】「書かない窓口」の導入で行政手続きの時短に成功
- ②【京都市】AIチャットボット搭載の子育て支援ツールを導入
- ③【鳥取県】ICTを活用した糖尿病対策で参加者の8割が血糖値改善
- ④【大阪府東大阪市】AIを活用し議事録作成にかかる時間を3割削減
- ⑤【静岡県掛川市】旧庁舎の空き会議室を活用したサテライトオフィスを設置
- ⑥【兵庫県神戸市】ペーパーレス化や電子決裁によりテレワークを実現
- ⑦【福島県】市町村にICT専門家を派遣し、DXに関するアドバイスを行う
- ⑧【東京都】人気メタバースRoblox上に名所を再現し、魅力を発信
それぞれの事例について分かりやすく解説していきます。
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①【北海道北見市】「書かない窓口」の導入で行政手続きの時短に成功
北海道北見市は、デジタルツールを活用した「書かない窓口」の導入で、行政手続きの時短に成功しています。
【課題・背景】
- 窓口での手続きにおいて、来庁者が複数の窓口を回らなければならなかったり、記入ミスで時間がかかってしまったりと効率の悪い状況が続いていた
- 工数のかかる窓口での手続きを簡易化し、職員と来庁者両方の負担を減らしたかった
【具体的な取り組み】
- 北見市が独自に開発した「窓口支援システム」で各種手続きの情報を整理し、1つの窓口で手続きを完結できる書かないワンストップ窓口を実現
- 入力したデータの処理には、定型的な作業を自動処理するRPA が活用され、入力と同時に自動で即時処理が可能
【得られた成果】
- 手続きの大幅な時間短縮に成功
- 2021年度での庁内全体の業務削減時間は、年間約 3,375 分短縮
- 4人世帯で市内転居したときの転居届の時間は、7分が2分半に短縮
- デジタル庁は「書かないワンストップ窓口」の仕組みを、自治体窓口DXと位置づけて、各自治体での導入を進めている
②【京都市】AIチャットボット搭載の子育て支援ツールを導入
京都市は子育て支援ポータルサイト「はぐくーもKYOTO」の運営や、子どもの成長やスケジュールを簡単に管理・共有できる子育てアプリ「京都はぐくみアプリ」を通して子育て支援を行っています。
【課題・背景】
- 民間のサイトと比較すると、京都市の既存の子育て支援サイトは目的の情報を探しにくいという問題を抱えていた
【具体的な取り組み】
- 子育て支援ポータルサイト「はぐくーもKYOTO」を開設
- 子供の年齢や境遇に合わせてパーソナライズされた情報を得ることができる機能を搭載
- 子育ての相談が可能なAIチャットボットを導入
- 健康診断の記録や共有、地域のお知らせを受け取ることができる「京都はぐくみアプリ」をリリース
【得られた成果】
- 住民が子育てに関する行政情報や教育環境の魅力について簡単に知れるように
- AIチャットボットで24時間365日子育て支援できる体制を構築
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③【鳥取県】ICTを活用した糖尿病対策で参加者の8割が血糖値改善
鳥取県は、最新のICT機器や医療機器を活用して県民の糖尿病対策を進めています。
【課題・背景】
- 県民の40代から60代の「働き盛り世代」の健康状態が相対的に悪いという問題を抱えていた
- 従来の保健指導では、対面指導に対する心理的ハードルや、来庁の手間から継続性の面で問題があった
【具体的な取り組み】
- 「糖尿病の予備群」を対象に、最新のICT機器や医療機器を活用して、3ヵ月にわたってバイタルデータのセルフモニタリングと生活習慣改善指導を行う
- 24時間の血糖変化を2週間にわたってモニタリングできる測定器のほか、体重や血圧の測定値もスマホで簡単に収集し、保健師に送信できる仕組みを導入
- 電話やメールで2週間に1度保健指導を実施
【得られた成果】
- トライアルの結果、体重は参加者の68%が減少したほか、血圧では79%、歩数も63%の参加者が改善
- 生活改善の心理的・物理的ハードルの低さから、継続率9割超えを達成
- 非対面の改善指導であるため、場所や時間に縛られることなく専門家のアドバイスが受けられ、参加者の負担が軽減
④【大阪府東大阪市】AIを活用し議事録作成にかかる時間を3割削減
東大阪市はAI議事録の導入により議事録作成にかかる時間を大幅に短縮し、職員の負担を軽減することに成功しています。
【課題・背景】
- 議事録作成において、録音した音声を複数回聞き直しながら作業を行うため、会議時間の約3〜8倍の作業時間を要していた
- 府庁では職員数削減の影響で残業時間が年々増加していた
【具体的な取り組み】
- AI を活用した音声認識技術による議事録作成支援システム用の端末を1台導入し、実証実験を行った
- 実証実験で効果が確認できたため、令和2年6月より端末を2台増設して3台体制とし、全庁に周知をし、議事録作成支援システムの貸し出しを開始
- AIは関西弁の変換も行うことが可能
【得られた成果】
- 議事録作成にかかる時間を3割程度削減
- 職員の残業時間を削減し、負担を軽減
⑤【静岡県掛川市】旧庁舎の空き会議室を活用したサテライトオフィスを設置
静岡県掛川市は町村合併を機に、旧庁舎の空き会議室を活用したサテライトオフィスを設置しました。
【課題・背景】
- 働き方改革の一環としてテレワークを進める必要があった
- 町村合併により南北に長い地形となり、一部の職員の通勤時間が増加し、負担が増していた
【具体的な取り組み】
- 合併した町村の旧庁舎の空き会議室を活用し、本庁及び2支所の計3箇所にサテライトオフィスを設置
- 大東支所は無線 LAN、大須賀支所は有線 LAN により庁内ネットワークに接続が可能
- 空いている PC や会議室の有効活用により、大きな経費をかけず、短期間での導入を実現
【得られた成果】
- 通勤時間や外出先から本庁に戻る移動時間の短縮によって、職員の負担を軽減し、効率的な業務遂行が可能に
⑥【兵庫県神戸市】ペーパーレス化や電子決裁によりテレワークを実現
兵庫県神戸市は、ペーパーレス化や電子決裁などテレワークしやすい環境を整え、働き方改革を推進しています。
【課題・背景】
- 庁内アンケート調査において、「既存の業務の中で改善すべき点がある」との回答が8割弱と高い割合にのぼったことや、庁内に「閉塞感、疲労感がある」との意見が多かったことを受けて、テレワークを中心とする働き方改革に取り組む必要があった
【具体的な取り組み】
- ペーパーレス化や電子決裁、フリーアドレスオフィスの導入等、場所にとらわれず働ける環境整備を推進し、在宅勤務しやすい環境を整備
- チャットや Web 会議の活用を推進し、非対面でのコミュニケーションを促進
【得られた成果】
- コロナ禍でも以前から体制を整えていたことにより、問題なくテレワークを行うことができた
- 電子決裁率は25.4%から 97.3%へ上昇
⑦【福島県】市町村にICT専門家を派遣し、DXに関するアドバイスを行う
福島県は、ICTアドバイザー市町村派遣事業を行っています。市町村にICT専門家を派遣し、デジタルを活用した助言等を行うことでDXを推進します。
【課題・背景】
- DX計画策定、オンライン化など、市町村にDXで解決すべき課題が山積
【具体的な取り組み】
- 市町村へICTアドバイザーを派遣し、デジタルを活用した助言等を行う
- ICTアドバイザーは協議会に所属する地元ベンターより派遣されるため、市町村との接点にもなる
【得られた成果】
- DX推進により効率的な行政運営、住民サービスの向上
- 行政手続のオンライン利用率の向上
⑧【東京都】人気メタバースRoblox上に名所を再現し、魅力を発信
Robloxは、若年層を中心に全世界で約4億人ものユーザーを抱える大人気メタバースゲームです。近年、多くの企業や自治体がRobloxなどのメタバース上にワールドを開設し、製品・サービスのPRやマーケティングを行っています。
2024年2月、東京都は、Roblox上に東京の街を再現したワールドを開設し、Robloxの多くのユーザーに東京の魅力を発信する取り組みを行いました。
【課題・背景】
- コロナで減少した観光客を取り戻すため、国内外に東京の魅力を広めて観光客を増やすための施策に取り組みたい
【具体的な取り組み】
- メタバースゲーム「Roblox」上に東京の観光名所を再現した「Hello!Tokyo Friends」というワールドを開設
- メタバース上の東京タワーでゲームを楽しめるなど、エンタメコンテンツを提供
- VTuberを観光大使として、メタバース上で記念イベントを開催
【得られた成果】
- 4億人以上のユーザーを抱えるRoblox上でのコンテンツ提供により、多くの人に東京の魅力を発信することに成功
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行政・自治体におけるDXを推進する6つのステップ
行政・自治体におけるDXの進め方は大きく6つのステップに分けられます。
それぞれのステップについてわかりやすく解説していきます。
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ステップ1:DXの目的・ビジョンを明確化する
DX推進の最初のステップとして、DXの目的・ビジョンを明確化しましょう。
「DX推進後の理想の自治体の姿」を明確に設定することで、その後の取り組み内容や優先度、進め方などを決定する軸とすることができ、ブレることなくプロジェクトを推進できます。
本ステップの検討には経済産業省の「DXレポート2.1」のフレームワークが役に立ちます。
行政・自治体の業務、住民へのサービス、業務プロセスのそれぞれが、どの程度までデジタル化された状態を理想とするかを、他の自治体の状況等も踏まえ、検討しましょう。
例えば、業務のデジタル化すら進んでいない組織であれば、3年後までにまずは業務のデジタライゼーションを目指す。一方で、業務のデジタル化が進んでいる組織であれば、3年後までにサービスのデジタルトランスフォーメーションを目指す。といったビジョンの設定が考えられます。
ステップ2:組織の現状と課題を把握する
続いて、現状どの程度DXを推進できているのか、ビジョンの実現に向け何が課題なのかを把握しましょう。
本ステップの検討には、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「DX推進指標」を活用することで、組織文化、推進体制、人材育成など、多角的な観点から評価を行うことができます。
それぞれの観点における自治体の成熟度のレベルを把握することで、特にDX推進が遅れているポイントを明確にすることができ、その後の戦略や計画の策定に活かすことが可能です。
ステップ3:DXに関する戦略と計画を策定する
前ステップで策定したビジョンと組織の現状・課題に基づき、DXに関する戦略・計画を策定しましょう。
検討すべき項目は上記画像のように多岐に渡りますが、特に重要なのは、「戦略=デジタル化の優先度付け」です。
デジタル化の対象や取り組み内容の候補は極めて幅広いため、バラバラと取り組みを進めてしまうことでリソースが分散し、思うような成果が上がらないというケースは少なくありません。
そのため、取り組みの候補を幅出し・整理した上で、DXを推進しやすくインパクトも期待できる取り組みから着手し、その後難易度が高くよりインパクトの期待できる取り組みにシフトしていくといった進め方が有効となります。
例えば、補助金申請のやりとりに関する膨大な作業の効率化を重点課題とした自治体であれば、まずは資料のペーパーレス化や判子の電子印化を進めた上で、その後一連の申請プロセス全体をデジタル活用により自動化するといった進め方が考えられます。
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ステップ4:DX推進チームを構築する
DXを推進するには、ビジョンや戦略を職員に周知し、現場からの課題を吸い上げながら、各部門と連携・調整し、実行支援も行う、DX推進専門のチームが必要になります。
そのため、DX推進チームのメンバーには特に、デジタルへの知見、コミュニケーション能力、業務の知見などのスキルが求められます。
また、DX人材の具体的な職種の例は以下の通りです。
- プロジェクトマネージャー:DXやデジタルビジネス構築を主導するリーダー
- テックリード:システム設計や要件定義を担当し、開発を主導
- UI/UXデザイナー:DXやデジタルビジネスのユーザー向けのデザインを担当
- エンジニア:デジタルシステムの実装・インフラ構築を担当
- データサイエンティスト:事業・業務に精通しデータの収集・分析を担当
これらのDX人材の確保には、外部ベンダー等の人材を活用する方法と、職員に対するDX人材育成を実施する方法があります。
DX推進のスケジュールや、職員のDXスキルの有無、既存業務を含めたリソースの有無などを考慮し、自社に最適な方法を選択しましょう。
ステップ5:デジタル化により業務効率を向上させる
これまでに策定したビジョン・戦略・計画に基づき、実際に業務効率化に向けたデジタル化を推進していきましょう。
ここで、いきなり全組織単位や部門横断の大規模なDXに着手してしまうと、デジタル化の難易度が高く、成果が出るまで長期間を要し、コストも膨大になってしまいます。
そこで、デジタイゼーション(書類で管理していたデータをクラウド上で一元管理する等)やデジタライゼーション(RPAの導入によりデスクワークの一部を自動化する等)など着実に成果の上がる取り組みを、特定の課や部門単位から進めるのがおすすめです。
前のステップまでは比較的トップダウン的な取り組みですが、本ステップからはいかに現場の各職員と深く対話し、小さな成功を積み重ねるというボトムアップ的な取り組みが重要です。
これにより、多くの人材から共感と信頼を勝ち取り、DX推進に巻き込んでいくことで、より大規模なDXの推進が可能になります。
ステップ6:PDCAを回し、新たな価値の創出まで繋げる
業務のデジタル化を進めることで、自治体は今まで見えていなかった業務や顧客に関する様々なデータを収集・蓄積・可視化できるようになります。
これらのデータを分析し、新たな業務の課題や大幅な効率化等の余地を発見し、取り組みを改善するというPDCAサイクルを、数ヶ月単位で何度も回すことで、大きな成果を上げることが可能です。
さらに、PDCAサイクルを回し続けることで、独自の詳細な住民データやより効率的なオペレーション、先端技術活用のノウハウなどの強みが蓄積されていきます。この強み蓄積こそが、斬新な住民サービス創出の源泉となります。
行政・自治体におけるDX推進を成功させる5つのポイント
行政・自治体におけるDXを成功させるためのポイントとして、以下の5つが挙げられます。
- ①リーダーのコミットメントにより組織全体を巻き込む
- ②自治体ならではのDX戦略を策定する
- ③十分なDX人材を確保する
- ④スモールスタートクイックウィンを実現する
- ⑤ゴールへの最短かつ低コストなアプローチを設計する
それぞれのポイントについて分かりやすく紹介していきます。
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①リーダーのコミットメントにより組織全体を巻き込む
DXは、個別業務のデジタル化だけでなく、全組織規模の業務やサービス、組織文化の変革など、組織のコアとなる部分を大きく変えていく取り組みです。
そのため、トップ層や各部署のリーダーが起点となり、DXのビジョン・方針を明確に示し、組織全体を強力に動かしていく必要があります。
具体的には、「どのような中長期的なDXのビジョンを描くのか」、「業務や住民体験、自治体サービスをどのように変えていくのか」、そのために「どの程度人材や予算を割り当てていくのか」などに対して、大きな権限を持って意思決定をしていくことが求められます。
一方で、リーダー陣がDXに対する危機意識が低い場合などは、DX推進部門や経営企画部門などが主導し、リーダー陣を含め、DXに関する職員向けの勉強会/ワークショップを実施することも有効です。
②自治体ならではのDX戦略を策定する
あらゆる人・モノ・コトがインターネットと繋がる現代で、人々の生活や業務、ビジネスの主戦場は、リアルの世界からデジタルの世界に加速度的にシフトし続けています。
その変化を踏まえ、いかにデジタルを活用し競争優位性を築いていくかは、全ての組織のイ運営戦略を考える上で必須のテーマとなっており、DX戦略を考えること=組織全体の運営戦略を考えること、と言っても過言ではありません。
そのため、DX戦略を策定する際は、特定の事業部/部門×個別の業務×デジタル化という範囲で考えたり、他の自治体が進めている取り組みをベースにして考えるといった、個別具体的なアプローチではなく、より中長期や全体のアプローチから、組織全体のビジョンや運営戦略、テクノロジートレンドや業界への影響などと連動させて考える必要があります。
③十分なDX人材を確保する
DXの成功に向けては、テクノロジーと戦略に対して深い知見を持つプロジェクトマネージャーや、専門的なスキルを有するエンジニア、デザイナーなどのDX人材を十分に確保することが必須となります。
本来であれば、既にDX人材が組織内にいればよいのですが、ほとんどの行政・自治体で人材が不足しているという現状があります。
また、市場全体として人手不足で、DX人材の争奪戦となっており、採用も思うようには進められないというケースも多く見られます。
そのため、足元のDX推進にむけては、運営課題とデジタルの両方に精通した外部のエキスパートを活用しながら、中長期目線では実践や研修を通じた人材育成をしていくといったアプローチが有効です。
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④スモールスタートクイックウィンを実現する
DXがなかなか進まない理由として、業務や組織を大胆に変えていくことが必要な一方で、全社規模の大きな成果が上がるまでには5年程度を有するという点があります。
そのため、取り組みの方向性が正しくても、短期間では成果が見えにくいことから、部門間の軋轢や現場からの反発が生まれ、変革のスピードが落ちてしまうケースが少なくありません。
そこで、組織単位でのインパクトは小さくとも、比較的短期で成果が出る取り組みを進め、その成果を組織内外に発信し巻き込んでいくことは非常に有効です。
取り組みの例としては、アナログデータのデジタル化や各種データの一元管理化、業務自動化ツールの導入などが挙げられます。
これらの取り組みにより小さな成功を積み重ね、他部門のリーダー陣や現場の職員のマインドが徐々に変わっていくことで、連鎖的に大規模なDXを推進しやすい状況を実現できます。
⑤ゴールへの最短かつ低コストなアプローチを設計する
業務の現状や課題を踏まえて設定したゴールに向けて、最適かつ低コストなアプローチ設計をすることは、DXの投資対効果を飛躍的に高めます。
そもそものDXの目的は、業務を効率化することや住民により良いサービスを届けることです。
一方で、「DXプロジェクトをやるぞ!」となると、本来目的であるはずのデジタル化自体が目的になってしまい、他の自治体が取り組んでいるからといった理由で、自分たちにマッチしない大掛かりなデジタル化をすすめてしまうケースが少なくありません。
もし大規模なシステム開発をせずに効率化を実現できるのならそれがベストであり、そもそも業務は必要か、効率化のインパクトは大きいか、SaaSの導入で解決できないか、アジャイルな進め方で小規模なPoCで仮説を検証する余地はないか、などより幅広い視点で検討をするようにしましょう。
DXの実行フェーズになっても、デジタルへの知見はもちろんですが、全組織単位での運営の視点や戦略思考が必要になります。
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- DXをどのように進めれば良いか分からない
- 自社にデジタル活用の経験や知識のある人がおらず困っている